切断処理第二段階

次に、残された他方のソケットがcloseされた時の動作を説明する。

(step 4)

アプリケーションがTCP_CLOSE_WAIT状態のソケットからデータを読み尽くすとEOFが戻される。(一般に)これを契機にアプリケーションは、残されたTCP_CLOSE_WAIT状態のソケットをcloseする。

基本的に一つ目のソケットのcloseと同じ処理を行う。異なるのは、ソケットの状態がTCP_CLOSE_WAITからTCP_LAST_ACKに移行する点である。

  1. ソケットのstate_changeメソッド呼び出しにより、このソケットで 待ちに入っているプロセスを起床する。
  2. receive_queueにパケットがあるときは、そのパケットを破棄し、 ソケットを即TCP_CLOSE状態にし、終了する。
    • TCP_CLOSE状態にすると同時に、遅延ソケット 削除タイマ(net_timer関数)の起動を行う (TIME_DONE)。TCPポートキャッシュからの削除も 行う(tcp_v4_unhash関数)。
    • コネクション相手に強制的にRESETを送りつける (tcp_send_active_reset関数)
  • receive_queueのパケットを全て読み出してからcloseを行った 場合はソケットの状態をTCP_LAST_ACKに変更(tcp_close_state)する。
  • FINパケットを送信する(tcp_send_fin関数)
    • まだ未送信のパケットがあればFIN情報を相乗りさせ、 (ソケットのsend_headが指すパケット)パケットを送出 (tcp_transmit_skb)。 パケットがない時は、FIN情報だけのパケットを新規 作成(sock_wmalloc)し、送出(tcp_send_skb)する。
  • setsockoptでlinger指定されているときは、 ソケットがTCP_LAST_ACKになるまで待つ。(送信相手から FIN対するACKが返送されて来るまで待つ)
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(step 5) 先にcloseしたソケットはTCP_FIN_WAIT2状態になっている。TCP_FIN_WAIT2状態がFINパケットを受信(tcp_rcv_state_process関数)すると、tcp_fin関数を呼び出す。tcp_fin関数は、TCP_FIN_WAIT2状態のソケットをTIME_WAIT状態のtcp_tw_bucketとTCP_CLOSE状態のソケットの二つに作り直す(tcp_time_wait関数)。

  • 新規にtcp_tw_bucketを確保(kmem_cache_alloc)し、 TCP_FIN_WAIT2状態のソケットをtcp_tw_bucketにコピーする。 状態はTCP_TIME_WAITに初期化する。
  • TCPポートキャッシュにTCP_TIME_WAITになったことを反映 (tcp_tw_hashdance関数)させる。
  • tcp_tw_bucket削除のためのタイマを起動 (tcp_tw_schedule関数)する。2SML時間後にtcp_tw_bucketが 削除されることになる。
  • TCP_FIN_WAIT2状態のソケットをTCP_CLOSE状態にし、一定時間後に 削除されるようにタイマの起動要求をだす。 まだTCPポートの解放は行わない。TCPポートの解放は タイマ(net_timer)の延長で行われる。

(step 6) 後からcloseしたソケットは、TCP_LAST_ACK状態になっている。これに対し通信相手のソケットからFINに対応するACKが戻ってくる。このACKを受信(tcp_rcv_state_process関数)すると、ソケットをTCP_CLOSE状態に遷移させ、一定時間後に削除されるようにタイマの起動要求をだす。

(step 7) TIME_WAIT状態のtcp_tw_bucketは、システム上に2MSL時間存在し続ける。生成されてから2MSL時間立つと、タイマ(tcp_twkill関数)がこのTIME_WAIT状態のtcp_tw_bucketの削除を行う。

TIME_WAIT状態のtcp_tw_bucketは、この2MSL時間TCPポートを占有し続けることになる。このTCPポート宛のパケットはtcp_tw_bucketが受信(tcp_timewait_state_process関数)し、応答を返す。

  • 正確には、先にコネクトされた相手ホストの同じポートからの パケットのみtcp_tw_bucketが受ける。同じTCPポート宛で あっても他のホストから送られてきたものや、同じ相手ホスト でも別のポートから送られてきたものはtcp_tw_bucketは 受信しない。これは2MSL時間内であっても同じTCPポートを 再利用し、全く別のソケットとコネクションを確立することが 可能であることを示している。 BSDでの実装と異なり、RFCに忠実である。

'step 4'で送ったFINに対し、'step 5'で送り返したACKがネットワーク上でロストしたとき、再びFINが送られて来ることもあり、再度ACKを送り返さなければならない。

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(NIS)HirokazuTakahashi
2000年06月11日 (日) 22時29分57秒 JST
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