FSF、米パソコン業者と協力してフリーなマシンを開発

 GNU/Linuxがきちんと動作するハードウェアを見つけるのは簡単ではない。ましてや、完全にフリーなシステム、つまりプロプライエタリなドライバやファームウェアを一切使わずに動作するマシンを探すとなると、作業は困難を極める。印刷はOpenPrinting、スキャナはSANEのデータベースというように、個別の機能については情報が得られるが、フリーシステム全体の情報を得られる場所はほとんどないに等しい。この間隙を埋めるべく、フリーソフトウェア財団(FSF)では、GNU/Linuxをサポートするハードウェアのリストの作成を独自に進めている。そして、次の1歩として、米でパソコン販売を手がけるLos Alamos Computers(LAC)と協力して、GNU/Linuxをプレインストールしたフリーなコンピュータを世に送り出す試みを始めた。

 FSFがハードウェアリストの作成を始めたのは数か月前のこと。現在はJohn Sullivan氏が同プロジェクトを管理している。リストの作成はなかなかはかどらない。gNewSenseなどのフリー・ディストリビューションでハードウェアが動くかどうか、FSFの担当者やボランティアがテストを済ませてからでないと、リストに掲載できないからだ。さらに同氏は言う。「メーカーによっては、パッケージやモデル番号を変えずに、チップセットを変更してしまうことがある。すると、動くはずのハードが動かないという事態に陥ってしまう。リストの更新は頻繁に行わないといけない」。

 Sullivan氏がLACのことを知ったのは、FSFの支持者からの提案がきっかけだった。FSFのハードウェアリストからLACのサイトにリンクを張ったらどうかと言われたのだという。昨年DellがUbuntu搭載マシンを発売して以来、FSFはプレインストール済みのフリーなシステムに興味を抱いていた。FSF独自のシステムを開発しようかという話にまでなったことがあるが、その後、既存の業者と協力する方が得策だという判断に至ったという。「こうしたマシンをあちこちに広めたい」とSullivan氏は話す。

 ただ、GNU/Linuxをプレインストールしたコンピュータを8年ほど前から販売してきたLACだが、「その時点では、フリーなシステムの販売という形ではなかった」とSullivan氏は言う。「そこで私は、さらに1歩踏み込もうという気があるかを問う文章を送った。LACのサイト上に新しいページを作って、GNUの名の下に“自由”を強調し、完全にフリーなシステムをそのページ上で販売する――そんなことに興味があるかと聞いてみた。LACはしばらく前からそういう考えを持っていたそうだが、我々からの呼びかけがきっかけで、話を前に進めようという気になった」。

フリーなシステムを開発

 FSFにとってLACは、さまざまな面で協力相手としてうってつけだった。LACは、Los Alamos National Laboratoryの元所員数人が立ち上げた企業。Eric Raymond氏に協力してLinux Journal誌の「Ultimate Linux Box」という記事に関与したり、2000年頃にLinus Torvalds氏にマシンを提供したことで知名度を上げた。研究者やソフトウェア開発者向けのマシンを専門に扱い、小粒ながらも確固たる地位を確立している。売り上げの98%はGNU/Linuxシステムの販売が占める。

 同社CTO、Gary Sandine氏はこう話す。「当社が扱う中には、デュアルブートのマシンは約2%あるが、Windows専用マシンはほとんどない。Windowsパソコンを希望するお客さんには、Dellなどの他社を紹介している」。

 Sandine氏がフリーなシステムの開発をRichard Stallman氏と最初に話し合ったのは5年前のことだった。FSFのSullivan氏がLACに連絡を取った時点では、LACは既にgNewSenseの搭載マシンも提供しており、同氏による説得はほとんど不要だった。現在、LACのWebサイトでは、フリーなシステムを購入できることをトップページで大々的に取り上げており、フリー・システムを専門に紹介するページもある。LACでは、GNUシステムの販売で得た利益から、いくらかの割合をFSFに寄付する方向で検討している。

 LACでは、Shuttleのワークステーションや、LenovoのノートパソコンThinkpad、若干のサーバなどを扱っている。ユーザの求める仕様に応じてカスタマイズしたシステムも構築できる。

 どの種類のコンピュータの場合も、LACは通常、オンボードのIntelのビデオカードを利用する。Sandine氏によると、フリーなシステムを構築する場合にはそれが最善の策だという。それ以外のハードウェアもほとんどは変更不要だが、ノートパソコンの場合には、ソフトウェア・モデムをPCMCIAのハードウェア・モデムに置き換える作業と、GNU/LinuxがネイティブにサポートするPCMCIAのワイヤレスカードを追加する作業をLACで行う。フリーシステムで採用しているOSはすべてgNewSenseだが、LACの標準のラインナップでは、CentOS、Debian、Fedora、Ubuntuといったディストリビューションを選択できる。LACが扱うマシンの約8割はDebianかUbuntuをプレインストールしているため、Ubuntuから派生したgNewSenseは、同社のテクニカル・サポートにとってはおなじみの環境だという。

 LACのマシンの中で、現時点で唯一、完全にフリーと言い切れないのがBIOSだ。しかし同社では、coreboot(旧称LinuxBIOS)の利用について実験を進めている。Sandine氏によると、同社で初めてフリーなBIOSを搭載したサーバを近日中に発売するという。また、フリーなBIOSを搭載したマシンには、サイト利用者から強い関心が寄せられており、もし可能であれば、すべての製品にフリーなBIOSを採用したいという。

市場での反応は

 LACのフリーシステムがどの程度の人気を博すのかは、Sandine氏も測りかねているという。同社では「Linux」ではなく「GNU/Linux」という表現を用いているが、「Linuxとどこが違うのかと考える人もいるのではという点については自信がない」と同氏は話す。かつて同社では、GNU/Linuxという言葉を使ったことで実際に売り上げが落ちた事例があったという。それに、システムが完全にフリーであるという謳い文句の意味について、違いを本当に理解できるのは熟練ユーザーだけではないかとSandine氏は考えている。

 「GNUというものを市場がどのようにとらえるのか自信がない」と同氏は率直に明かす。LACが販売を開始して以来、「さまざまな動きがあり、いろいろな話もしてきたが、売り上げという面ではさしたる変化は起きていない」とのことだ。

 それでも、FSFからの働きかけで始めたフリーなシステムの販売は今後も続けていくとSandine氏は話す。「100%フリー・ソフトウェアだけで構成されたシステムを販売できることをうれしく思っているし、今後も販売を続けていく。我々の事業は、したいと思ったことを手がけるというやり方で進んで行ける段階に達している。我々は、100%フリーなシステムを確実に利用したいと考えるユーザの力になりたい」。

Bruce Byfield コンピューター・ジャーナリスト。Linux.comに多く寄稿している。

Linux.com 原文