終盤を迎えつつあるSCO訴訟

 優れた小説家であれば「事実は小説よりも奇なり」という諺を常々実体験として感じさせられているに違いない。そして先日ユタ連邦地裁にてSCO側が行った発言も、そうした事例の1つと見ていいだろう。それは、この日に備えて長年準備を進めてきたであろうはずのSCO首脳陣による、Unixの商標権はNovellではなくSCOが所有しているという主張にまつわる一連の発言であった。

 そもそも今回の一件はUnixの知的財産権(IP:intellectual property)がLinuxに無断使用されたというSCOによるIBMその他の企業を相手とした訴えが主題ではなかったはずなのだが、Novell側の弁護士たちはこの点をも追及しだしたのである。その背景に関して流れている憶測の1つは、SCOの破産申請という事態の発生によって今回がLinuxに関するSCO側の主張を法廷にて攻撃する唯一無二のチャンスと化したため、競合製品の登場妨害を目的としたFUD行為を展開するべき最初にして最後の機会として利用することを思い立ったのであろう、というものだ。

 ただし状況がここに至る以前の段階でNovellによる攻撃の矢面に立たされていたのは、SCOにてUnixの知的財産権の有償提供を取り仕切るSCOSourceという部門のトップを一時期務めていたChristopher Sontag氏であった。そしてSontag氏は、UnixWareコードないしUnixWareにつながる一連のUnixツリー全体においてSCOが実際にどのようなコードを有償提供していたかに関する言及は回避したものの、SCOはMicrosoftから16,680,000ドル、Sunから9,143,450.63ドルをそれぞれ受け取っていたにもかかわらず、これらの取引および収益の発生をNovell/SCO APA(Asset Purchase Agreement:資産購入契約)の取り決めに反してNovellに報告していなかったことを最終的に認める状況に追い込まれていたのである。

 この公聴会の2日目(4月30日)にSontag氏は、同氏自身が「LinuxにてUnixWare固有のコードが本当に使用されているかは分かっていませんでした」ということを認めていた。また同氏は、「レガシー化したSVRX(Unix)ソフトウェアがUnixWare中に」存在することを示す調査結果を何一つ承知していなかったことも認めている。SCOの有すUnixの知的財産権の責任者という立場にあって、SunおよびMicrosoftへのライセンス供与を手配した当事者であり、その所属する企業はLinuxにおけるUnixコードの不正使用についてIBMを訴えていたというにもかかわらず、Sontag氏の手元には、自分自身がいったい何を有償提供していたのかについての正確な情報がもたらされていなかったようなのである。

 Sontag氏に続いて証言台に立ったのはSCOのCEOを務めるDarl McBride氏であった。そして同裁判の記録に従う限り、事態がいささか現実離れした様相を呈し始めたのは、この場面にてMcBride氏が登場した時からということになる。McBride氏による証言は、先にUnixないしUnixWareコードがLinuxにて使用されているかは知らなかったとしたSontag氏による発言の直後であったのだが、そこで同氏は「私どもはSystem VがLinuxにて使われている証拠を有しています」と語ったのだ。しかしながらより印象に残るのは、Unixからの直接的コピーの存在を長年にわたり証拠立てることができなかったにもかかわらず、「LinuxとはUNIXのコピーであって何らの相違点も(両者の間には)存在しないのです」としたMcBride氏の証言の方であろう。

 McBride氏は、Linuxを使用中の各社に対してSCOから2003年5月に出された書簡および「Linuxの開発過程にて生じる得る法的責任はエンドユーザ側に帰される可能性もある」とされている点に言及することで、「私どもからライセンスを取り上げられるべき理由を私は何一つ見いだすことはできません」との主張をしている。

 その後McBride氏は、SCOが先の書簡中で「弊社の有する権利については積極的な防衛と行使をする意図があります」と述べていることおよび、既に同社によるIBMの訴訟が起こされている点に触れ、そうした状況ではあるがSCO側には「その他の関係者もすべて告訴する」意図はないと発言している。しかしながらこの発言は、Linuxのエンドユーザも訴訟の対象にする可能性をSCOはほのめかしているのだと、大多数の目には映ったのである。

 次にMcBride氏を苦しませたのは、SCOがMicrosoftおよびSunから得た収益を正当化することであった。この件の示唆するところは、McBride氏は強く否定していたものの、SCOは2003年から2004年におけるその公式書面にて同社株式の購入者を欺いていたということである。

 McBride氏の発言ではSunはOpenSolarisにてオープンソースUnixを使用する権利を有しているとSCO側は考えていたとされてはいたものの、同社とSunの間で交わされた最新の契約内容が本質的に、Sunは「Solarisオペレーティングシステムの取り扱い方を検討し、SCOがかねてより携わってきたIntelへの準拠度合いを高める」ということに主眼が置かれている点において、Sun側にとって将来的な禍根となりうる可能性を有しているはずである。

 次に宣誓証言を行ったのは、Novellにてテクノロジ関連の法務責任者を務めるGreg Jones氏であった。Jones氏は2003年におけるSCOとSunの合意について語り、「(この合意では)Sunがオープンソースライセンスモデルの適用下でSolarisをオープンソース形態でリリースすることが認められており、これがOpenSolarisという名称のプロジェクトにて行われることでした。これはLinuxだけでなくNovellとも直接的に対立することになりますが、それはNovellにとってLinuxが重要な商品だからです。私どもはLinuxディストリビュータの1つなのですから」と証言をした。

 Jones氏の発言は、仮にNovellがこのSCOとSunとの提携話を知っていたなら、それを認めることはなかったはずだと続き、その理由として「ごく単純にNovellの商業的利益に反するからです。2002年の秋にNovellは、デスクトップLinuxベンダの1つであるXimianを買収していました。つまり私どもはLinux市場への参入を計画していたのであって、ライバル企業によるLinuxの取り扱いを認める行為はNovellの利益に反します。またこの合意の場合、それが提携された時点で先の資金を彼らはすべて手中に収めていました。私としてはこれは彼ら側から申し出た提案だとは思っていますが、いずれにせよこれはNovellの商業的利益に反する行為のはずです」という点を挙げていた。

 裁判の3日目、SCO側はその主張を曲げなかったが、特に追加するべき事柄も提示しなかった。

 そして裁判の最終日、Novell側はすべての証言を終えた際に、Unixの知的財産権を有すのはSCOではなくNovellであることは先のAPAによって明白であると、ごく簡潔に主張した。つまりSCOはこの種の訴訟を起こす権利そのものを有していないのであり、よって問題の資金を保持し続ける権利を何一つ持たないのであると。

 Novell側はその最終論告にて、SCO/Sun提携に対する再度の反論を展開した。そこでNovell側は「彼ら(SCO)がSunにオープンソース版Solarisを許可したのは疑いようのないことです」という点を指摘し、SCOの幹部はSolarisをオープンソース化する権利をSunに与えることには何らの商業的価値もないと信じさせようとしていたものの、当のSCO側エンジニア陣はオープンソース化したSolarisは巨大な価値を有すものと考えていたと語ったのである。

 件のAPAによってUnixの知的財産権を有償で提供する権利をSCOが得ているという主張については、今回の訴訟に残された時間内においてSCO側がその補強をすることはまずないであろう。そして対するNovell側の弁護士は、LinuxにてUnixコードが使われているという主張をSCOは具体的な証拠を示すことなく行い続けている点を執拗に追及するようになった。裁判所による最終的な判決は近日中に下されるものと予想されている。

 また最後に残されたSun側も、OpenSolarisにおけるNovellの知的財産権問題に今後も取り組み続けなくてはならないであろう。CDDL(Common Development and Distribution License)の適用下でOpenSolarisにてSystem Vコードをオープンソース化する権利をSunは有しているという主張を、Novell側はまったく認めていないからである。

Steven J. Vaughan-Nicholsは、PC用オペレーティングシステムとしてCP/M-80が選択され、2BSD Unixを使うことがクールとされた時代から、テクノロジおよびそのビジネス利用についての執筆活動を続けている。

Linux.com 原文