多数の機能をコンパクトにまとめたSlackwareベースのGoblinX

  GoblinX は、安定性に定評のあるSlackware Linuxをベースとしたインストール対応型のライブCDであり、Standardエディション2.6が先月リリースされたところである。その中には有用な多数のアプリケーションおよび、KDE、Fluxbox、Xfce、Enlightenment、WindowMakerという5つのデスクトップマネージャが同梱されている。私が好感を抱いたのは、こうした豊富なソフトウェアの品揃えもさることながら、GoblinX 2.6本体の発揮する安定性とパフォーマンスの高さである。

 310MBサイズのStandardエディションは自由にダウンロード可能な汎用型ディストリビューションという位置づけであるが、GoblinXではその他にも3種類のエディションが用意されている。そのうち100MBサイズのMicroエディションはFluxboxおよびGTKアプリケーション群のみを収録したバージョンであり、153MBサイズのMiniエディションはXfce 4を収録したバージョンである。これらはGTK愛好派にとって適したエディションであり、小型で軽快なシステムを維持したいユーザや、自分で最大限掌握できるシステムをリマスタリングしたいユーザなどの好むところだろう。最後のPremiumエディションは有償でのみ利用できるバージョンであって、これにはStandardエディションの全収録ソフトウェアに加えて、コンパイラ、ライブラリ、その他多数のドライバが追加されている。

 Slaxと同様にGoblinXでもライブCD環境の作成にはLinux Live Scriptsを用いているため、そのインフラストラクチャおよびソフトウェアパッケージ群の構築は各種のモジューラコンポーネントに依存している。ここで言うモジューラとは、様々なソフトウェアパッケージやパッケージグループを収録した圧縮形式のアーカイブのことである。例えばGoblinXリポジトリを覗いてみると、openoffice-2.3.1-i486-v2.6.lzmやkernel_src-2.6.21.3-i486-v2.6.lzmなどの存在を確認できる。なおGoblinXの場合、モジューラ群のカスタマイズやリマスタリングによる独自のライブCDを作成するための機構も装備されている。

 GoblinXと言えば独自の外観を有するLinuxデスクトップシステムとして既に1つの評価を確立していたものであるが、現リリースの収録テーマ群に関しては、より広範なユーザに訴える必要性からか若干のトーンダウンをしているよう見受けられる。私としてはFallカラースキームが失われたのが残念でならない。黒を強調したコントラスト、不気味さを醸し出す壁紙、ハロウィーン風のイメージなどは、私の深層心理に訴えかける点があって気に入っていたのだが。もっとも刺激的なバッググラウンドが全廃されたという訳ではないため、現行リリースのユーザであってもその独自の雰囲気を堪能できるはずだ。

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GoblinX KDE GoblinX Xfce

インストーラ

 現行のISOに同梱されているハードドライブ用インストーラに関しては若干のバグが潜んでいる。この件については対応版をダウンロードすればいい。

 GoblinXのインストーラは高度にユーザフレンドリ化されているが、それは事前にパーティションの用意ができていることが前提となる。そうでない場合はcfdiskを用いたパーティション作成が行われる。その点を除けば、すべての設定項目はインストーラ画面から実施できるようになっている。画面左側の選択ボックスにはシステム上で検出されたパーティションが一覧されるので、その中からGoblinXのインストール先を指定すればいい。その直下には各種の選択用オプションが配置されており、使用するファイルシステム、インストールパーティションにフォーマットを施すかどうか、新規インストールをブートする際のランレベル、表示用の言語が指定できる。ここでの使用可能な言語としては、英語、ポルトガル語、フランス語、ドイツ語、スペイン語が用意されており、その他の言語が必要であれば対応するモジュールをダウンロードして、インストーラウィンドウの上部に配置されている言語の追加サポート用ボタンにて読み込ませればいい。その他、rootパスワードの指定、新規ユーザの作成、モジュールの追加および削除用のボタンもここには用意されている。なお既存のソフトウェアモジュールについては、追加と削除をする以外のパッケージ選択は行えない。そしてインストールプロセスの最後には、LILOブートローダをインストールするかのオプションが提示される。

 私の環境の場合、インストーラは良好に作動したが、ユーザアカウントが作成されなかった。インストール時にこの件に関するエラーは報告されなかったものの、ブートが完了しても私のユーザアカウントは存在していなかったのである。その対策として今回はコマンドラインツールのuseraddを用いてユーザを作成したが、同様の処理はKDE User Moduleでも行えるはずだ。

ハードウェア的な対応状況

 今回私がGoblinX 2.6 Standardエディションのテストベッドとして使用したのは、この種の試験用に愛用しているHewlett-Packard Pavilion dv6000ラップトップであり、このマシンにはNvidia系グラフィックスシステム、AMD 64プロセッサ、Broadcom 4311無線Ethernetチップが搭載されている。そして本マシンにてライブCDおよびインストール版のシステムはどちらも1280×800という最適な解像度にて立ち上がり、ログイン完了時点でサウンド関連も正常に動作してくれた。有線式Ethernetはブート中に有効化されたが、このマシンでLinuxディストリビューションを使用する場合の常として、無線接続に関しては手作業で設定しなくてはならなかった。

 今回用いた無線Ethernetは設定そのものは特に難しくないのだが、その際に必要となったのがコマンドラインでの操作である。GoblinXにはKDE Wireless Assistantが同梱されているものの、そこから接続可能なアクセスポイントはこのツールが認識できる範囲に限られており、私の無線チップではWindowsドライバを必要とするため、Ndiswrapperによるインポートと読み込みをしなければならないのだ。もっともGoblinXではこうした操作も簡単かつ短時間で終わらせられはしたが、どうやらこのディストリビューションの開発陣はwpa_suppliant(WiFi-Protected Accessネットワークのパスワードネゴシエーションに使用)を同梱し忘れていたようである。そのため今回は、GslaptというSlackwareおよびSlackwareベースディストリビューション用のコマンドライン系パッケージマネージャを用いて、GoblinXリポジトリからwpa_supplicantのダウンロードとインストールを行っておいた。その後の接続処理に使用したのはKWirelessAssistantである。またブート時にスタートアップスクリプトによる自動接続をさせることができなかったので、wpa_supplicantおよびdhclientを/etc/rc.d/rc.localファイルに記述しておいた。

 KDEでの省電力およびバッテリ監視関連の機能は、KLaptopを介して利用することができる。ただしこれらについては自動検出の設定がされていないので、ユーザがpowernow_k8やcpufreq_ondemandなどの必要なモジュールを読み込ませるまで該当する機能は利用可能とならない。これらのモジュール読み込みを自動化したければ、/etc/rc.d/rc.modulesファイルにてコメントアウトしてある該当行を有効化すればいい。CPU動作速度のスケーリング機能は正常に動作したものの、サスペンドおよびハイバーネーションについては、私のラップトップで“nv”Xorgグラフィックドライバを使用している間は機能しなかった。その他のウィンドウマネージャに関しては、「${color #e3c66a}battery: $battery」を~/.conkyrcに追加してConkyを有効化することでバッテリ残量の監視ができるようになっている。

 リムーバブルメディアは自動マウントされた上でブラウザウィンドウにてオープンされるようになっているが、これはユーザセットアップ時にplugdevグループへのユーザ登録を忘れていないことが前提となる。なおKDE上でリムーバブルメディアを挿入すると、選択用ダイアログが開いてシステムトレイにアイコン表示が行われるが、データメディアのファイルシステムをアンマウントするためのグラフィカル系オプションは用意されていない。またオーディオCDやムービーDVDについては特定のアプリケーションで自動再生するようにはなっておらず、アプリケーション選択用のKDEダイアログも表示されない。Xfce 4の場合、マウントとアンマウントはデスクトップアイコンの右クリックメニューからアクセスでき、オーディオCDはAudioCD Manager、ムービーDVDはTotemにて開くようにされている。

同梱されているソフトウェア群

 GoblinXは中程度のダウンロードサイズであるにも関わらず、非常に多数のソフトウェアが同梱されており、その多くはKDEアプリケーションであるが、GTKの代替品も使用可能になっている。そのためメニューはかなり込み入った状態になっているが、各種のデスクトップから必要なアプリケーションにアクセスするのには不自由しないはずだ。

 グラフィック系アプリケーションとしては、GIMP、Gwenview、gThumb、Qivssなどが用意されている。このうちQivssを使うと、画像を収録したディレクトリをスライドショー再生することができる。私がQivssを使用したのは今回が初体験であったが、実際に使ってみると非常にスムースに動作してくれた。

 インターネット関連のアプリケーションとしては、ADSL PPPoe、Pidgin、Firefox 2.0.0.12、GDHCPD(DHCPデーモン設定用のグラフィカルフロントエンド)、Kandy(携帯電話用の端末)、Urlgfe(ダウンロードマネージャ)、Kasablanca(FTPクライアント)が利用できる。その他に、KMail、KNode、AkregatorなどのKDEアプリケーションも多数用意されている。なおデフォルトでFirefox用プラグイン類は同梱されておらず、Flashの自動インストールも失敗するため、必要な場合は手作業でインストールしなければならない。

 Multimediaメニューには、Amarok、Audacious、Juk、KsCD、Totemを始め、Brasero、Grip、K3bなどが登録されている。これらを使った再生に関しては、Ogg、MP3、MP4、MPEG、AVIファイルのみならず暗号化DVDについてもノートラブルで対応することができた。なおKDEにおけるデフォルトのマルチメディア系アプリケーションであるNoatunは、私の環境では正常に動作しなかった。

 Officeメニューからは、Abiword、Gnumeric、Dictionary、Orageおよび、KAlarm、KNotes、KOrganizerなど各種のKDEアプリケーション群を利用できる。

 Settingsメニューについては、Configure the Panel、Desktop Sharing、File Sharing、GTK2_prefs、IDesk Configuration、KDE PrinterおよびSamba設定用のツールが用意されている。Systemメニューに登録されているのは、Daemons Control、Kcron、LILO Editor、CUPS Printer Manager、Xvidtune、Gslapt Package Managerなど多数のツール群である。Utilitiesメニューからは、Fraqtive(フラクタル描画用)、Archive Manager、Conky、Leafpad、Take Screenshot、Thunar、Tracker Search Toolなどのアプリケーションが利用できる。なおこれら3つのメニューについては内容が一部重複しており、ここでの分類法には少し戸惑わせられるかもしれない。

 Lost and FoundメニューにはGoblinXモジュール関連のツール群が納められている。Build Mos(gtkMods)は、ユーザがソフトウェアパッケージないしはソフトウェアパッケージ用のファイルセットからモジュール作成を行うためのサポートツールである。Convert Mos(gtkConvert)は.rpmや.tgzなど異なるパッケージフォーマットからのモジュール変換を行うためのツールである。Live RemasterはカスタマイズしたライブCDの作成用ツールである。そしてRebuild Modules(gtkEmods)を使用すると、特定モジュールからファイルの追加と削除が行える。その他、GoblinXリポジトリ用の設定が済まされたGslaptが用意されているので、モジュールフォームで提供されていないソフトウェアについては、これを使って探せばいいだろう。

 GoblinXには、システム設定モジュール群の中央管理型ラッパーであるMagic Centerも同梱されている。その基本的な機能はKDE Control CenterやKDE Log ViewerといったKDE用の設定アプリケーションを呼び出すためのものだが、ブートローダの設定とインストール、initデーモンの設定、fstabの編集などの作業をMagic Centerから開始することもできる。ただしこのユーティリティは現状で開発途上のようであり、一部のサポートファイルは用意されておらず、ボタン群もその多くがグレーアウトされている。

 GoblinXはLinux 2.6.21.3をベースとしており、その他の基本コンポーネントは、X.Org Xserver 1.4.0.90、KDE 3.5.8、GCC 4.1.2という構成である。

 GoblinXのWebサイトには有用な情報やヘルプが多数掲載されている。ここでは各種のFAQやハウツー集を閲覧できるが、より具体的なサポートが必要であればユーザフォーラムを利用すればいいだろう。

 GoblinX Standard 2.6の総合評価は、非常に良好と評していいはずだ。例えばブート速度は高速であり、GUI関連の反応も機敏で安定しているが、その一方で若干のトラブルにも遭遇しており、特に目立つのはHomeおよびKonquerorメニューのアイテムにおいて開くべきファイルやWebブラウザが開かないという問題である。またEnlightenmentについてはKDMメニューからのアクセスはできないが、コマンドプロンプトから実行すればいい。その他に今回遭遇したトラブルらしきトラブルと言えば、私の環境ではNoatunが正常に動作しなかったことくらいである。

 GoblinXの使用が適しているのは、高速に動作する小型軽量なシステムが好みだが、できるだけ多数のオプションも提示されたいというユーザであろう。実際GoblinXでは5種類のウィンドウ環境および多様なソフトウェア群が利用可能であるのに、インストールサイズは1.4GB以下に収まるのである。機能的にも常用するシステムとしての使用に充分耐えられるはずだが、その使いこなしにはコマンドライン操作の経験がある程度必要であるため、初心者Linuxユーザにはお勧めできない。むしろGoblinXの最適なユーザ像としては、通常インストールだけでなくライブCDにおいても自分の使用するシステムにはカスタマイズを施したいというタイプの人間が合致するのではなかろうか。

Linux.com 原文