生焼け状態で強行された感のあるSlax 6.0のリリース

  Slax はSlackwareベースのモジューラ形式Linuxディストリビューションの1つで、先月バージョン6.0がリリースされたところである。今回のリリースではtarインストールフォーマットの新規採用と寄付のお願い制度が設けられたほか、いくつかの看過しがたいバグが発生している。

 Slax 5.xリリースからの大きな前進の1つは、従来のISOインストールファイルに加えて190MBのtarイメージが利用可能となった点であろう。このtarファイルは主としてUSBメディアでの使用が想定されているが、ハードドライブにインストールすることもできる。アーカイブのメモリスティックへのインストール手順に関して特に難しい点はない。私の場合、単一パーティションにフォーマットしたVFATファイルシステムの512MBペンドライブを使用しているが、まずはこのデバイスをマウントした後、パーティションに移動してSlax-6.0.0.tarを展開する。次に/bootディレクトリに移動してbootinst.shスクリプトを実行する。実際これだけの操作によって、Slaxはトラブルフリーでペンドライブから起動できる状態となってくれた。またペンドライブ上のインストレーションに加えた変更はオペレーティングシステムのシャットダウン後も保持されており、こうした操作性についてはSlaxのインストール先をハードドライブにした場合と特に変わりはない。

 Slaxのブートメニューには便利なオプションがいくつか用意されており、デフォルトのブートオプションはKDEを用いたGraphicsモードとされているが、その他にも、Copy to Ram、Always Fresh、Vesa Mode、Text Mode、Run Memtestというオプションが利用できる。デフォルトのGraphics Modeでは、グラフィックスチップの自動検出による最適な設定での起動が試みられる。Copy to Ramはパフォーマンス向上用にシステムをメモリ上に読み込ませる指定で、このオプションはCD-ROMを起動メディアとした場合に特に効果を発揮するはずだ。Always Freshはシステムをリードオンリーモードで起動させるオプションで、この場合ユーザの施す変更は保存されず、再起動時に反映もされなくなる。Vesa ModeはいわばSafe Videoモードとでも呼ぶべきオプションで、多くのグラフィックスチップに対応したVesaドライバを使用させるための設定である。そしてMemtestを選択するとシステムRAMのテストが実行される。

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Slax 6.0のデスクトップ

 SlaxのKDE 3.5.8デスクトップは、デザイン的にはそれほど印象深いものではない。壁紙はアップデートされているものの、画面中央に1組のスニーカが配置されるという基本デザインは旧バージョンからそのまま踏襲されている。その他のテーマについても、KDEのデフォルトコンポーネントをほぼそのまま流用しているようだ。現行のLinuxではデスクトップを華やかに飾り立てるのが流行っているが、Slaxの場合はそうした潮流に乗る気はないのだろう。

Slaxのハードウェアサポート

 Slaxのハードウェアサポートに関しては、玉石混合という評価をせざるを得ない。例えばHewlett-Packard Pavilion dv6105usラップトップについては1280×800の画面サイズに合わせた“nv” Xorgドライバによる最適解像度でのブートが行われたものの、ボリュームを最小に絞っておいたにもかかわらずスタートアップサウンドはかなり歪んだ音で再生されたのである。もっともこれはスタートアップ時にのみ発生した現象であり、その原因は今もって判明していない。その他のアプリケーションおよびシステムサウンドに関しては、いずれも正常な再生が行えている。

 その次に発生したのは私の所有するBroadcom BCM94311MCGワイヤレスEthernetチップにNdiswrapperが対応できないという問題だ。Ndiswrapperがワイヤレスネットワークカードを認識できない理由を確認するべくログをチェックして見つかったのが、linuxwireless.orgで提供されているファームウェアが有効かもしれないという指示である。半信半疑ながらもRJ-45ケーブル接続による同サイトへのアクセスを試してみたところ、b43ドライバへのリンクおよびその抽出にfw-cutterを使用しろという旨のガイドが用意されていた。あまり期待せずにこの指示に従って必要な操作を行った結果、意外なことに次回のブート時においてNICは使用可能となってくれたのである。なおSlaxには、Wi-Fi Protected Access(WPA)でのパスキー認証を行うためのwpa_supplicantが同梱されていないため、このコンポーネントについてはソースをダウンロードしてビルドを行う必要があった。こうして私の環境については正常なワイヤレス接続が可能となったのである。

 Slaxには多数の省電力機能が用意されている。そのためにはpowernow-k8やcpufreq_ondemandなどのハードウェアに適したモジュールを読み込ませておく必要はあるが、私の環境では設定完了後にKlaptopプログラムによる省電力操作が利用可能となってくれた。例えば、プロセッサを低速化させて発熱の抑制とバッテリ稼働時間の延長を行うためのCPU Frequency Scaling設定は、Performance Profileに配置されるアプレットメニューにて調整できる。その他にサスペンド機能も利用できるはずなのだが、私のラップトップでは正常に動作しなかった。マシンをスリープさせることはできるものの、そこからの復帰ができないのである。ハイバーネーションに関しては、メニューオプションとしての提示すらされなかった。

Slaxに用意されているソフトウェア

 Slaxのメインコンポーネントは、Linux 2.6.24、Xorg Server 1.4.0.90、GCC 4.1.2という構成である。そしてSlaxの開発陣は、多数のソフトウェアを搭載した小型パッケージというコンセプトを達成するため、squashfsでのLZMA圧縮により構成モジュール群を小さくすると同時にブロックサイズを大きくさせている。またユーザによる変更を保存可能とするためにSlaxで採用されたのがAUFSである。ただし旧リリースのSlaxから圧縮率が高まった代償として全体的なパフォーマンスが損なわれているようであり、例えばメニューの反応速度やシステムおよびアプリケーションの起動速度は目に見えて遅くなっており、後述するようなマルチメディア系での動作問題も発生している。

 ソフトウェアのラインナップについては5.xリリース当時から大きく変化はしていない。KDEシステムのインストールサイズが300MBを占めていることからも分かるように、KDEアプリケーション群についてはフルセットに近いものが取り揃えられている。

 Gamesを選択すると、KBattleship、KBounce、Patienceなどの起動メニューが表示される。Graphicsに用意されているアプリケーションは、Kuickshow、KolourPaint、KSnapshot、KColorChooserといった構成である。Office系アプリケーションとしては、KWord、KPresenter、KSpread、KPDF、Kontactが利用できる。KCalc、Kjots、KWrite、Ark、KNotes、Klipperについては、Utilitiesに分類されている。こうした品揃えについては、Slax用のコンソールエディタが含まれていないのが若干不便と言えるだろう。

 Systemメニューには、KInfoCenter、KSysGuard、KDE Printer設定モジュールが用意されており、またSlaxのパッケージ管理システムであるSlax Module Managerもここからアクセスできる。ただし残念なことに現状のSlaxサイトは準備中とされており、利用可能なモジュールは数が非常に限られている。それでも現在提供されているモジュールに関する限り、ダウンロード後のインストールは先のマネージャによって問題なく実行できるはずである。

 その他にもslikと呼ばれるSlax版klikを介した“use it online”機能も利用できるはずなのだが、私の環境では動作しなかった。例えばFirefoxインストール用の“use it online”リンクをクリックしてデスクトップに表示されるのは、該当する項目は既にインストール済みであることを告げるメッセージなのである。そしてこのリンクはメニュー上に表示されはするものの、クリックしても何の反応も示さず、しかも再起動後にはこのメニューアイテムそのものが削除されてしまうのだ。Firefoxのダウンロードとインストールについてはグラフィカル形式のモジュールマネージャも試してみたが、この場合も当該モジュールは既にアクティブ化されている旨のエラーが表示されるのに、Slax Module Managerのインストール済みモジュールとしてはリストされないのである。この問題については、コマンドラインにてdeactivate firefox-2.0.0.12.lzmおよびactivate firefox-2.0.0.12.lzmを実行したところ解消され、これでようやくFirefoxが利用できるようになってくれた。なおこれらのコマンドは、従来使われていたuselivemodおよびunuselivemodコマンドに相当するものである。またこれも余談だが、SlaxではpkgtoolというSlackwareパッケージ管理システムが残されているので、これを用いたSlackware 12.0用パッケージのインストールをいくつか試したところ正常に動作させることができている。

 他のメニューと同様にInternetメニューからも、Konqueror、KMail、Kopete、Akregator、Krdc(リモートデスクトップ接続)、Krfb(デスクトップ共有)、KNetAttach(ネットワークフォルダ設定)といったKDEアプリケーション群にアクセスできる。またこのメニューには、Network Configurator、KPPP、KWiFiManagerなどのエントリも用意されている。このうちNetwork Configuratorはネットワークの基本設定、KPPPはモデムによるダイヤルアップ接続のセットアップと実行をするためのサポートツールである。そしてKWiFiManagerはワイヤレスアクセスポイントのスキャンと接続用のツールなのだが、実際に試したところスキャンは行えるものの接続の確立はできなかった。しかしながらこのInternetメニューにおいて最大のトラブルメーカとなったのは、もっと別のアプリケーションである。それはKonquerorであり、ごく通常の操作を行っているだけなのに幽霊ウィンドウ化したりフリーズやクラッシュを頻発したりするのに止まらず、悪い場合はシステム全体を使用不可能にしてしまうのだ。この件に関しては直ぐ後に気づいたのだが、Konquerorではかなり前からnspluginviewer関連のバグが生じており、その対処をする必要があったのである。結局、Konqueror設定にてプラグイン群を無効化することで不安定な挙動は解消されたものの、その代償としてFirefoxのインストールが不可欠になってしまった。

 Slaxにおけるマルチメディア系タスクは、KPlayer、JuK、KsCD、K3b、KAudioCreator、KMixにて賄えるようになっている。このうちKPlayerについては、暗号化DVDを含めた手元にある全種類のビデオファイルを再生できはしたものの、フレームドロップが頻発しすぎてとても動画を楽しむどころの話ではなかった。Slaxの場合swapパーティションが自動で使用されないのが原因かと思ったが、これを手作業で有効化しても事態は改善されず、同様にCPUスケーリング機能の“performance”およびプレーヤ側の設定を変更したのも功を奏さなかった。なお同様の症状はFirefox上で再生するオンラインアクセス型のFlashビデオでも発生しており、QuickTimeビデオ用のライブラリ群については最初から同梱されていない。ただし音楽ファイルおよびCDについては問題なく再生できている。

まとめ

 Slax 6.0は、ホビー用OSとしてはそこそこの出来かもしれないが、一般のユーザに推薦できるレベルには達していない。5.xリリース段階から大幅な変更をいくつか受けているし、プロジェクトのWebサイトも整備途上のまま放置されている。ハードウェアに対するサポートは若干の問題点はあるものの許容可能なレベルだが、マルチメディア系の貧弱なパフォーマンスには大いに失望するしかなく、現状でごく少数のアドオンモジュールしか利用できないのも減点材料とせざるを得ない。プロジェクトのサイトに用意されているドキュメントも限られているが、サポートフォーラムは活動を再開しているようだ。

 あるいはSlax 6.0という存在は、過渡段階のリリースと見るべきなのかもしれない。このリリースを総合的に判断すると、ファイナル版というよりベータ版と評するべき出来だからである。

Linux.com 原文