ビデオのフォーマット変換を簡単に実行できるOggConvert

  OggConvert はGUIベースのシンプルなビデオトランスコーダであり、その出力形式はTheoraおよびDiracというフリー系フォーマットのみに対応している。フォーマット変換の操作は極限にまで簡単化されているが、登場して間のないDiracコーデックを手軽に試してみることができる点にも注目すべきだろう。特に操作性に関しては、この種のソフトにつきものの複雑な設定をいくつも調整する必要はなく、対象となるファイルをドラッグ&ドロップして処理の完了を待つだけである。

 OggConvertはソースコードおよび、Debian、Fedora、SUSE、Ubuntu用のバイナリパッケージとしてダウンロードすることができ、最新リリースのバージョンは0.3である。OggConvertはPythonで記述されているが、メディアの変換処理にはGStreamerを使用している。

 Diracフォーマットへの変換を実行するには、最低でもGStreamer 0.10.11およびlibschrodingerエンコードライブラリを用意しておかなくてはならない。GStreamerについては最新のLinuxディストリビューションならば通常は用意されているはずだが、libschrodingerは完成度が今一歩ということもあってその普及度は低く、Debian、Ubuntu、Fedoraであれば標準的なパッケージシステムを介して入手しておく必要がある。

変換作業の実際

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OggConvertのメインウィンドウ

 OggConvertを起動してみると、その非常なまでに簡素化されたインタフェースに、かえって戸惑わされるかもしれない。画面の最上部にはファイル選択用のボタン、その下にはオプション設定用のいくつかの項目、そして再下段には変換結果のファイル名およびその出力先を指定するコントロールが配置されている。

 ファイル選択ボタンをクリックするとGTKのファイル選択ウィンドウが表示されるので、この画面を介して変換可能な入力ファイルを指定すればいい。対応するファイルは、MIMEタイプがvideo/*およびaudio/*とされているフォーマットはすべて変換可能だが、application/oggとされている既存の.oggメディアは対象外である。入力ファイルの指定後は、ビデオコーデックとしてTheoraとDiracのどちらを使用するかを設定する。変換時の画質と音質については、Video QualityおよびAudio Qualityという2つのスライダにより10段階のレベル切り替えが行えるようになっているだけである。

 なおAdvancedというコントロールを開くと、メディアコンテナフォーマットとしてOggおよびMatroskaのどちらを使用するかを指定することができる。Matroskaはバージョン0.3で採用されたばかりのフォーマットであるが、これもOggと同様にパテントフリーかつオープンソースであり、GStreamerでもサポートされている。Matroskaの開発陣はOggに対する各種の優位性を主張しているが、あまり触れられていない相違点の1つに、Matroskaが任意のコーデックをカプセル化できるのに対して、OggはTheoraのようなXiph.orgコーデックのみに特化しているという大きな違いがある。

 必要なオプション指定が終わったら、後はConvertボタンをクリックするだけである。変換中はOggConvertのプログレスウィンドウが表示され、処理の進捗度および処理完了までの推定時間が提示される。ただしこの表示の読み取りには注意が必要で、私が試したすべてのケースにおいて、進捗度が130%以上に達しないと処理は完了しなかった。実際のエンコード速度としては、シングルコアの2.4GHz Athlon CPU搭載マシンにて実行した場合、Theora適用時には約2倍の速度を出せたが、Dirac適用時は1倍未満である。

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「処理が131.5%まで進行した」と告げるOggConvertのプログレスメータ

 将来的なリリースについては、マイナーな修正を施してもらいたい点が若干残されている。例えば何度か、「変換が“ストール”したのでプロセスをキャンセルしろ」という旨の警告メッセージが出されたのだが、いずれのケースにおいても処理は正常に進行しており(プログレスメータ、コンソールメッセージ、システムモニタが正常な動作を示している)、最終的に正常なファイルが得られているのである。

 こうした些末的な問題は残されているものの、OggConvertによって高品質のビデオフォーマット変換がきわめて簡単に実行できることに間違いはない。なおソースファイルにあるメタデータをすべて吸い出した上で指定の形式によるターゲットファイルに収め直す処理が自動的に実行できるのは、GStreamerのおかげである。

 DVD::Ripのような機能満載型のトランスコーダを使った経験のあるユーザであれば、Theoraなどのコーデックには複雑な設定オプションが付随するものだという認識を持っていることだろう。OggConvertの場合は、そうした雑多な設定オプションを背後に隠している訳だが、手軽な変換を求めているユーザにとってはそれが正解のはずである。

 正直私も最初にOggConvertを試用した際には、10段階の品質設定スライダという仕様に対して、個々のレベルに関するもう少し詳しい説明が必要だろうと感じたものであった。しかしながら“品質”とは非常に主観的なものであり、要は変換後のビデオの画質やサイズに個々のユーザが満足するかということでしかない。また実際に各設定レベルでどの程度の品質が得られるかを確認したければ、手元にあるビデオの先頭数秒だけを実際に変換してみて、個々の結果を見比べてみればいいだけのことである。

OggConvertの過去と未来
 OggConvertの制作者であるTristan Brindle氏は、Wikipediaに関するディスカッションに触発されてOggConvertの開発を始めたと説明している。「同サイトにおけるTheora/Vorbisの使用に反対している人間が何人かいましたが(Xvid/MP3などの方が望ましいとの理由で)、その根拠はffmpeg2theora以外に簡単なOggファイルへの変換法がないということでした。それならばGStreamerとPythonを使った簡単なGUIを作ってやればいいだろうと考えて出来上がったのがOggConvertです」

 Brindle氏の見るところ、オープンフォーマットを一般の人々に使用してもらえるかは、実用レベルの関連ソフトウェアが簡単に扱えるかでほぼ決まることになる。「新しいものに手を出してもらうには、より優れたオーディオコーデックを提供する必要がありますが、幸いなことに私たちはその点については既にクリアしていました。それでもVorbisファイルの作成がMP3よりも手間がかかり過ぎるようでは、誰も使いたがりませんから、その辺の問題を解消することが私の目的だった訳です」

 そのためBrindle氏としては、今後もOggConvertを“極めてシンプル”な状態に維持し続けることを考えており、将来的にサポート対象のコーデックを増やすことはあっても、DVD::RipやAcidRipのような余分な付加機能で過剰装飾する予定はないそうである。問題は何が過剰で何が過剰でないかの線引きだが、同氏は「その点については、初回リリースから2時間後に機能追加に関する最初の要望を受け付けてから、ずっと悩まされ続けています」としている。

 Vorbisに対するMP3のアナロジーをもう少し続けてみよう。音楽データのリッピングが一般化する初期段階においてユーザは、各自が所有するCDの楽曲ファイルをデジタルデータとして抽出するのにGripなどの専用リッピングソフトを使用していたものである。ところが時が経つにつれて、こうしたリッピングやフォーマット変換といった処理はオーディオプレーヤ本体の組み込み機能として統合されていったという経緯がある。

 Brindle氏はビデオのリッピングも同様の過程を経るであろうと予測しており、最終的にOggConvertのような単純な変換機能は他のアプリケーション群で共用可能な1つのライブラリにまとめることを検討しているそうだ。「それが実現されると、いろいろと面白い機能が比較的簡単に実装できるようになるはずです。例えば、Totemプラグインに“ビデオをiPod/PSP/携帯電話/その他にエクスポートする”というボタンが追加できたり、YouTubeやGoogle Videoにある動画を任意のフォーマットでハードドライブに保存するためのFirefoxプラグインを構築するといったことです」

 こうしたレベルでの簡単な操作が実現されると、フリーのビデオフォーマットの普及に一気に弾みがつくことになるだろう。

Diracという未完成なコーデックの有す意味

 ビデオファイルをわざわざフリーフォーマットに変換する意味については異論の余地があるかもしれないが、OggConvertというツールに関しては、一般ユーザ(つまりはビデオコーデックのプログラマ以外の人々という意味)がフリーのDiracコーデックを気軽に試用してみることができる点だけでも評価に値するはずである。

 DiracはBBCの開発したコーデックであり、その圧縮方式にはwaveletが採用されているが、現在でも技術的な改良が加え続けられている段階であるため、その変換時にOggConvertが用いるlibschrodingerソフトウェアだけでなく、Diracというフォーマット自身が今も変化し続けているのである。実際Diracを用いた変換を試みると、OggConvertからは、これが実験段階にあるコーデックである旨の警告が出される。

 TheoraとDiracによる変換結果の違いは、画面上で再生される画質およびディスク上のサイズとして現れることになる。なおlibschrodingerはGStreamerプロジェクトの1つであるため、Diracでエンコードされたファイルを再生するにはGStreamerベースのビデオプレーヤを用意しなければならない。Theora形式のビデオの場合は、GStreamerでサポートされているのはもとより、VLCやMPlayerなどいくつかの非GStreamer系プレーヤでも対応している。

 こうしたDiracエンコーダが実用間近になりつつあることに興奮している1人が、OggConvertを作成したTristan Brindle氏その人である。同氏によるとTheoraは、「Xvidの足元にも及んでおりませんし、その点はH.264やVC-1などの近代的なコーデックについても同様です。その唯一にして最大のメリットは(文字通りの意味で)フリーであるという点に尽きますが、大多数の人々は端からそんなことを気にかけていません」ということになる。

 「それに対してDiracは、正真正銘の最新鋭なフリーのビデオコーデックです(少なくとも近日中にそうなる予定です)。特にBBCというブランド名が関係することで、Theoraでは果たし得なかったメインストリームでの注目を集めることができるかもしれません。私がOggConvertにおいてDiracのサポートをかなり早期の段階で取り入れておいたのも、可能な限りこのコーデックを後押ししておくことは非常に重要だと判断したからです」

 以下は私のテストした限りにおいての話だが、同じ品質設定で同一のソースファイルを変換させたところ、DiracエンコードのファイルとTheoraエンコードのファイルとでは、前者の方が常に変換後のファイルサイズが大きく、処理終了までの時間も長く、画像圧縮時に生じるアーティファクトの量も多かった。よって現状ではTheoraの方が優れた選択肢ということになるはずであり、実際Dirac適用時のOggConvertからはその旨の警告が出されるようになっている。とは言うものの、現段階でのDiracを試す機会を提供しているという意義も否定はできない。私としても、今後libschrodingerがアップデートされるごとに、同コーデックの改善具合を実地に試していくつもりだ。

 昨年私が執筆した記事の中にThoggenに関するものがあったが、これもドラッグ&ドロップ方式によるビデオコンバータで、ごく簡単な操作でDVDビデオをTheoraフォーマットに変換することができる。OggConvertの場合は主眼の置き方に若干の違いはあるものの、一般ユーザが深く考え込むことなく手軽な操作で変換ができるという点で、両者の目指す方向性はほぼ共通していると私は感じている。それに比べると、パテントフリーのビデオフォーマットの普及を促進するであろうという側面などは、刺身のつま的な存在に過ぎないと言えるだろう。

Linux.com 原文