Busybox-MonsoonのGPL訴訟が和解という形で決着

 この9月にSoftware Freedom Law Center(SFLC)がBusyBoxの開発者2名の代理人としてMonsoon Multimediaに対して起こした訴訟は、当事者間の和解という結末を向かえた。

 BusyBoxとは組み込み式デバイスで多く利用されている軽量型の標準ユーティリティ集であるが、その利用者側のライセンス違反については、現在までに少なくとも18件の疑わしいケースが確認されているとのことだ。今回の訴訟内容は、Linux.comでも以前に掲載したように(翻訳記事)、BusyBoxのコードを利用したHavaというMonsoon製品においてソースコードの提供を申し出る文書が添付されておらず、これがBusyBoxのリリースに用いられたGNU General Public License(GPL)の規定に違反しているものとして訴えられたのである。

 訴えが出された9月20日時点における、SFLCの法律担当ディレクタを務めるDaniel B. Ravicher氏からの説明では、「私の知る限り(今回の訴訟は)、私自身も含めて、GPLへの準拠を裁判所に訴えることになったアメリカ国内における最初の事例のはずです」とされていた。

 1つの画期的な判例が出されるかと思われた今回の訴訟であったが、その数日後にMonsoon側からSFLCとの間で和解の協議に入ったことを告げるアナウンスが出されたことで、その期待は一挙に薄れてしまった。この段階で多数の報道関係者は今回の訴訟は解決したも同然と見なしていたが、先のRavicher氏は、Monsoonがその公式アナウンスにて今後のライセンス準拠を示唆した点は認めつつも、「事ここに至って、単に今後はライセンスに従いますとするだけでは、この問題は解決したことになりませんし、それを認めれば、唯一の処罰は事後承諾的にライセンスに準拠することのみとなり、発覚するまではライセンス違反をしても構わないようになってしまいます」との見解を示していた。

 そしてRavicher氏がこのコメントでほのめかしていたように、Monsoonから出された和解条件には、BusyBox側の代表として提訴を担当したRob LandleyおよびErik Andersenの両氏に対する金銭的解決という非公開な申し出が含まれることとなったのである。

 BusyBoxは法人組織ではなく、問題となったコードの著作権もそれらを提供した複数のプログラム開発者が有していたため、今回はBusyBoxの権利を守るにあたり、先の両氏が個人の立場として訴えを起こしていたのであった。そのため今回の和解が、これら個人としての原告に対してなされるのか、Busyboxという団体全体に対してなされるのかは不明となっている。

 その他に、訴訟の取り下げおよび今後もBusyBoxを継続して使用することに対するMonsoon側からの見返りとしては、同社がオープンソース関連のライセンス担当者を設け、そのWebサイトで配布されてきたBusyBox版のソースコードを公開するとされている。Monsoonはまた、同社を介してBusyBoxを入手した人々に対し、そのソースコードに関する権利を知らせるための「相当な努力をする」ことを約束している。

 また先のアナウンスでは、Landley氏の発言からの引用として「私どもは(Monsoon側により)ライセンス準拠に対する積極的かつ迅速な対応がされたことを、非常に喜ばしく感じています」という記載がなされている。

 同じくAndersen氏から出されているのが「私どもは、Monsoon Multimediaが将来的にオープンソースコミュニティを支える一員となってくれるであろうことを期待しておりますし、今後も同社の活動を楽しみにさせて頂きます」という発言である。

 Monsoonの会長兼CEOを務めるGraham Radstone氏の語るところでは、今回の合意は「費用のかかる訴訟に持ち込むよりも、当事者間で和解する方がはるかに好ましい結果が得られることを示しています」ということになる。Radstone氏はまた「今回の合意を将来的にも遵守し続けるようにします」ということを約束しており、Monsoonの姿勢が「ライセンス準拠におけるよき見本となる」ことを期待するという発言をしていた。

 SFLCの代表としてRavicher氏がLinux.comに語ったところでは、今回の訴訟の顛末はこれまでアメリカ国内で発生したGPL違反の典型的なケースであり、「BusyBoxがMonsoon Multimediaに対して訴訟を起こすことができたのは、GPLの有す法的強制力を証明した最新の事例にあたります」ということになる。「私達はオープンソースのライセンス擁護のために長年活動してきましたが、相手側の団体がGPLの無効性を法廷に訴えることが自分達の利益になると判断したケースに遭遇したことは一度もなく、Monsoonもその例外ではなかった訳です」

 そしてRavicher氏は、「ライセンスへの準拠を求める努力を継続するのは、フリー/オープンソース系ソフトウェアにとって非常に重要なことです。ライセンスというものは、その中にどのような要件が定められていようとも、必要な強制力が伴っていなければ、コミュニティにおける権威も存在意義も失われてしまうものなのです」とも補足している。

 こうしたコメントから窺い知れるのは、SFLCおよびそのクライアントにとって、今回の合意に金銭的解決が含まれていたのはフリーライセンスの違反行為に対する警告としての意味が強く、それよりもライセンス準拠に関する内容の方が現在および将来においてより重要であると見ていたということである。このような見方をする限りにおいて、SFLCとそのクライアントは、当初掲げたすべての目標を達成したと言えるだろう。

Bruce Byfieldは、コンピュータジャーナリストとして活躍しており、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿している。

Linux.com 原文