Officeソフトウェア対決:OpenOffice.org対Microsoft Word、ラウンド3

 このところ、数年おきにOpenOffice.org WriterとMicrosoft Wordの比較を行っている。最初の比較が2002年、2回目は2005年だった。これら2回の比較では、安定性の高さに限らず、OpenOffice.orgのほうが優れている、との結果が出た。Microsoft Office 2007が登場して半年が経過し、OpenOffice.org 2.3の正式リリースが近づいている今、両者の状況はどうなっているだろうか。それを確かめるべく、大半の中・上級ユーザが利用するであろう各要素について両者の比較を行った。

インタフェース

 Microsoft Office 2007におけるリボン導入の宣言によって、(その是非をめぐる意見のやりとりで)多くのキーボードが摩耗したに違いない。少なくとも1社の企業が、以前の外観をMicrosoft Office 2007に与えるためのプログラムを現在提供している。しかし、その表面的なごまかしの部分を取り払ってしまえば、リボンはメニューとツールバーを合わせたものに過ぎず、この変化に対して先入観を持たない人であれば大半の目的については20分もあれば操作に慣れることができるだろう。一番の問題はリボンのアイデアそのものではなく、1つのペインに関連する機能群をグループ化しているにもかかわらず、リボン上のアイテムの配置がよろしくないことにある。設定オプションが見つけにくかったり、機能によっては完全に不規則に配置されるものがあったり、以前はファイルメニューや編集メニューにあったコマンドが左上のタブとホームタブの左端および右端に分かれ、さらには挿入タブ上に無作為に放り込まれているものがあったりする。多くのユーザは、ファイルおよび編集メニューの一部はリボン領域の左側にある大きなロゴボタンの下にあったほうがよい、と思うのではないだろうか。

 OpenOffice.orgのWriter 2.3は当初から模倣してきた以前のMicrosoft Wordの外観を踏襲したうえで、その他のプログラムやマクロから採り入れたいくつかの機能を新たに統合している。その結果、雑然としたものになってはいるが、少なくともどこに何があるかの予想がつく程度の雑然さになっている。Writer 2.3では、リボンではなく、適切な状況でポップアップされるフローティングツールバーを採用している。こうしたツールバーが作業している領域に唐突に現れることもあるが、全体として見ればそうした表示による混乱はインタフェースの完全な刷新によって生じる混乱よりもずっと小さい。

判定: OpenOffice.orgの勝ち。OpenOffice.orgの設計が優れているわけではないが、Microsoft Wordのインタフェース変更が的外れであり、好ましくない理由でユーザを狼狽させるため。

スタイル

 ワープロソフトのスタイルは、ソースコードの変数宣言のようなものである。一度作っておけば、必要になるたびにその作業を繰り返さなくてもよいので手間の削減になる。文字、段落、箇条書き、フレーム、ページの各スタイルを持つWriterは現在使えるワープロの中で最もスタイル指向なものの1つであり、ユーザが高度な機能を活用するにはスタイルの適用が求められることが多い。また、スタイルおよび書式設定のフローティングウィンドウのおかげで、スタイルの適用が最も容易なプログラムの1つにもなっている。

 Microsoft Word 2003では独自のフローティングスタイルウィンドウが用意されていたが、Word 2007の開発者はスタイル機能をホームタブのリボンの右半分に配置することを選んだ。この場所には、最もよく使われるスタイル数個と、10種類以上のスタイルが選べるドロップダウンリストが表示されている。これらのスタイルは、Wordの初期のバージョンで使われていたものを思い起こさせるような、「Elegant」、「Formal」、「Modern」といったグループにさらに分割されている。スタイルを変更するにはいくつかの階層を掘り下げる必要があり、新しいスタイルの作成はメニュー選択ではなく文書内の書式設定の選択によって行う。各スタイルの縮小プレビューは評価できるが、一般的なインタフェースとして機能全体を見ると十分な理由なく見た目の派手さを選んだ箇所が数多くある。また、ページやフレームのスタイルが存在しないため、Wordのレイアウトは相変わらず大幅に制限されている。

判定: OpenOffice.orgの勝ち

ページレイアウト

 Writerのページレイアウト設定には、中級レベルのデスクトップパブリッシングプログラムの機能に相当する、スタイルを適用するたびにテキストフレームを繰り返すという機能がない。一方、Wordにはデザイン単位としてのページという概念がほとんどない。Word 2007では、何種類かのページレイアウトを含むBuilding Blocksによって望ましい方向へと一歩を踏み出しているが、その柔軟性はWriterのページスタイルには遠く及ばない。

判定: OpenOffice.orgの勝ち

テンプレート

 これまでのWordは、複数のテンプレートの適用によってユーザの文書を台無しにしかねないものになっていた。Word 2007では、複数のテンプレートを適用するインタフェースを提供しないことで、こうした傾向をなくそうとしているようだ。理論的にはこの変更によってWordファイルが破壊される可能性は低くなるはずだが、実際にそのとおりになるかどうかは十分に使い込んでみないとわからない。

 Wordの場合は何十というテンプレートがインストールされるほか、オンラインでもさらに多くのテンプレートが提供されており、この点では少数のテンプレートしか付随していないWriterよりも圧倒的に優れている。Writerでも何十種類というフリーのテンプレートがオンラインで簡単に入手できるのだが、なぜかOpenOffice.orgにはそれらが収録されていないばかりか、Wordにあるようなそうしたサイトへのリンクさえ用意されていない。

判定: Microsoft Wordの勝ち

アウトライン機能

 この機能については、両者とも以前のバージョンから何も変わっていない。以前と変わらず、Wordでは折りたたみ可能なツリー状のアウトライン表示になっており、Writerではナビゲータ・フローティングウィンドウに見出しのリストが表示される。Wordのアウトライン表示ではユーザが個々の見出しを非表示にすることが可能だが、Writerのナビゲータウィンドウにはあるレベルより下のすべての見出しを非表示にするオプションしかない。また、Writerではナビゲータによって本文のテキストを表示する前に「ツール」→「番号付け」でカスタマイズをいくらか行う必要があるが、Wordではそうした表示がデフォルトで行われる。

判定: Microsoft Wordの勝ち。OOo Writerのアウトラインはかろうじて使えるレベルでしかない。

箇条書きと番号付きリスト

 Word 2007は、複数レベルの箇条書きの設定ツールに一定数のレイアウトオプションを用意することで、以前のバージョンから改良が施されている。ただしその点を除けば、Word 2007の箇条書きは、番号付けおよびデザインのマクロによってSEQフィールドが自動的に適用されるように編集開始時に設定を行わない限り、やはり正しく表示されない傾向がある。またWordでは、箇条書きのスタイルは定義できるが、行頭文字とテキストとの間隔のような細かい部分の微調整が行えない。

 Writerのほうはバージョンが2.3になっても箇条書き機能の実装は変わっていないが、これ以上の改良の余地はほとんどないといえる。箇条書きのスタイルを使う場合も、何の問題もなく項目のレベル付けや移動が可能であり、細部までレイアウトを編集できる。

判定: Writerの勝ち。Word 2007はいくらか改善されているものの、一方のWriterには大きな難点が見当たらない。

 以前のWriterには深刻な制約がいくつかあったのだが、現在、表の扱いはWordでもWriterでもほとんど変わらず、同じような表の作成機能を持ち、書式設定の選択肢の広さも同じである。ただ、どちらも書式設定にもの足りない部分があり、Writerのオートフォーマットは適用した書式と同じ行数の表にしか使えず、Wordの表の書式は特定の表に関するオプションを変更すると表示がおかしくなりやすい。表を描画するWordのツールを気に入っているユーザもいるだろうが、このツールはとても効率的とはいえず、基本的な数学関数やその集中化された書式設定オプションの利便性を実現するWriterの機能にもあまり影響を与えていない。また、相変わらずWordでは、書式設定にあたって当初の目的を忘れてしまうほど何度もダイアログを開く必要があるようだ。

判定: 引き分け。両者とも大いに改善の余地あり。

ヘッダーとフッター

 何年もの間、Wordはヘッダーおよびフッター用の不便で中途半端なWYSIWYGツールに関しての悪評が高かった。Word 2007になってようやくこのツールは姿を消したが、代わりに登場したものにもあまり改善の跡は見られない。Word 2007にはヘッダーまたはフッターの選択肢がデフォルトで4つしかなく、そのうち3つは使えそうにないばかりか、文書内のセクションを用いない限り、最初は奇数ページと偶数ページで別々のヘッダーが用意され、書式の数も制限されている。

 これに対し、Writerではヘッダーとフッターをページスタイルに関連付けることで、それほど手間をかけずに非常に多彩なヘッダーとフッターを利用できる。また、Writerのヘッダーとフッターにはより多くの書式設定オプションが存在する。また、Writerではフッターとヘッダーを別々のスタイルとして定義できる。

判定: OOo Writerの勝ち

脚注と文末脚注

 Writerの注釈は、テキストのスタイル、テキスト内のマーカーや区切り線のデザイン、注釈が次のページにまで及ぶときに連続して表示させるかどうかなど、あらゆる面で高度なカスタマイズが行える。これに対し、Wordの注釈機能は基本的なものでしかない。

判定: OOo Writerの勝ち

クロスリファレンス

 この機能については、長々と説明する必要はないほど白黒がはっきりしている。Writerのクロスリファレンスツールは不可解なままで、カスタムのフィールドやマクロを追加しなければ自動的に処理されない。Wordのほうも大きな変更はないが、こちらはそれほど変更の必要がない。なお、両者とも、クロスリファレンスに説明用のテキストを作成して保存できる機能があれば便利なものになるだろう。

判定: Microsoft Wordの勝ち

索引、目次、引用文献

 これまでと変わらず、Wordの索引および目次の書式設定はWriterのものほど洗練されてはいない。たとえば、Wordの設計者は目次内のエントリの順序が1つとは限らないことや、エントリのテキストとページ番号とを結ぶ点線が問題になりうることを想定していないようだ。一方、Writerの索引と目次では、若干込み入った大がかりなインタフェースになってはいるが、もっと踏み込んだカスタマイズが可能である。

 唯一Wordが勝っているのは、引用文献に対して自動的に用いられる標準の引用書式を選択できる点である。Writerでも特定の引用書式を用いるように設定することは可能だが、かなりのカスタマイズが必要になる。

判定: OOo Writerの勝ち。ただし、Writerの引用文献に改善の余地がないわけではない。

マスタードキュメント

 マスタードキュメントは、長大なものになりがちな文書の編集を容易にするファイルの集まりである。Microsoft Wordのマスタードキュメントは、もう10年以上も使ってはならないものと言われ続けてきた。これまでのWordのどのバージョンでも、マスタードキュメントはそのサブドキュメントを破壊してしまう恐れがあったからだ。この点はWord 2007になっても変わっていない。

 Wordのマスタードキュメントにずっと悩まされてきた人々にとって、Writerは嬉しい驚きだった。使いやすく、全体的に安定していて、ほとんどクラッシュが起こらず、サブドキュメントが破壊されることもない。

 皮肉なことに、Wordでマスタードキュメントが必要な理由は、それなしに40ページを超える文書を扱うと信頼性が低下することにある。これに対し、Writerでは文書データを効率よく処理できるだけの十分なメモリがあれば、何百ページもの文書を扱うことができる。

判定: OOo Writerの勝ち

図形描画ツール

 バージョン2.0のリリースにより、Writerは基本図形、チャート類、グラフィカルテキストを操作できるMicrosoft Wordと同等の機能を得ている。しかし、最新のバージョンでは両者ともこうした機能に変更はない。

判定: 引き分け。あるいは、クリップアートの収録数と選択幅の広さの点でWordの勝ちといえるかもしれない。

独自の機能

 これまでのリリースと同様、Wordには文法チェッカーが含まれている。この点については両者の違いがはっきりしており、Wordでは誤りの修正に役立てることができるが、Writerにはこの機能が存在しない。また、Word 2007には調査および翻訳用のリンクも含まれている。ほかにもWord独自の機能としては、文書内の変更箇所表示オプションの選択、同一文書の違うバージョンどうしを別々のペインに表示できる機能、複数のクリップボードなどがある。

 一方、WordにはないWriter独自の機能というものはほとんどない。WriterにはデフォルトでPDF形式でのファイルのエクスポート機能が含まれているが、Wordでもアドオンによって同じ機能が利用できる。

判定: Microsoft Wordの勝ち

結論

 これまでの2回の比較と同様、ほとんどのカテゴリにおいてWriterが勝っている。しかし、そうしたカテゴリの多くでは、勝敗の判定が以前よりも難しくなっている。ここ最近のいくつかのリリースでは初めて、Wordの設計者は大がかりな変更を行ったように見える。ただし、こうした変更は必ずしも成功してはいない。事実、メニュー項目をリボン内に再配置したことは、未解決のままになっているマスタードキュメントの不具合のような長期的な問題から目を逸らさせる試みと疑われてもしかたがないくらいだ。しかし、少なくとも努力の跡はうかがえる。対照的に、Writerのほうにはあまり進歩が見られず、問題の中には(とりわけ、クロスリファレンスに関するもの)Wordの問題と同様、長い間ほとんど手つかずになっているものもある。

 フリーソフトウェアであるWriterには、Wordには真似のできない強みがある。それは理念、価格、入手のしやすさ、そしてアップデート頻度の高さである。しかし、機能面だけについていえば、Writerはその評判にあぐらをかき、惰性だけで前に進んでいるように見える。こうした状況が続けば、優位性に翳りが生じるか、あるいは完全に失われてしまうかもしれない。

Bruce Byfieldは、Linux.comとIT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリスト。

Linux.com 原文