Linuxレビュー:Graphup――グラフィックのプロにふさわしいツールを揃えたディストリビューション

 Grafpup 2.0はPuppy LinuxをベースとしたコンパクトなLinuxディストリビューションであり、グラフィックの専門家がターゲットユーザになっている。そのため、インストール時のさまざまなオプション、独自の設定ユーティリティ群、ディジタルアーティストに的を絞ったアプリケーションの組み合わせが用意されている。グラフィックが見た目に心地よく、Openboxによるデスクトップ環境は旧式のハードウェアでもスムーズに動作する。いくつか問題はあるが、Grafpupは多忙なグラフィックデザイナやグラフィックライタにふさわしいディストリビューションといえるだろう。

 Grafpupには、WebブラウザにDilloを据えた67MBのバージョンからフル機能のMozilla Seamonkeyスイートを採用した114MBのものまで、数々のISOイメージが存在する。私はFirefox派でサイズが増えても気にならないので、Seamonkeyバージョンを選択した。

 ライブCDから立ち上がるまでの時間は、同じマシン(512MBのメモリを積んだ古いCeleron 1.5GHzマシン)でKnoppixを立ち上げるときよりも若干短かったが、両ディストリビューションのサイズの違いから期待されるほどではなかった。ただ、前回のブートで変更した設定があればその検出と再割り当てが自動的に行われるので、余計な時間を取られることはない。この辺りのパフォーマンスは優れている。今回、Nvidiaグラフィックカードや周辺機器がそれぞれ異なる2台のAthlonマシンでもGrafpupのブートを試したが、どちらでも問題なくハードウェアが検出された。

 ハードディスクへのインストールも簡単に行えた。メインメニューの「System」セクションから「System installer」オプションを選ぶと、従来のUSBキーへのフルパーティションインストールから同一パーティションに他のディストリビューションを共存させる領域節約方式のインストールに至るまで、豊富なインストールオプションが用意された使いやすいウィザードが現れる。節約インストールを選んだところ、数分間はエラーもなくハードディスクへのファイルのコピーが行われた。しかし、インストーラがGRUBの設定ファイルにGrafpupを追加する段になると、GRUBの設定ファイルが編集できないことを知らせるポップアップメッセージが表示された。幸いインストーラは書き込もうとしているファイル名も教えてくれたので、その設定内容をコピーして手作業で追加を行うことができた。インストール全体にかかった時間は10分ほどだった。

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Grafpupのデスクトップ
 できたてのGrafpup環境をブートして、真っ先に行ったことはrootパスワードの変更、grafpupユーザの削除、自分のユーザアカウントの追加だった。通常のadduserコマンドを使って自分用のユーザアカウントを追加したが、「ログインコマンドが実行できません」と表示され、新規ユーザとしてのログインは拒絶された。そこで、rootでログインしてGrafpupのセットアップツールを使ってユーザの追加を試みたところ、今度はすべてがうまく行き、無事にログインすることができた。

 すぐに気が付いたのは、私のお気に入りのエディタであるnanoばかりかvi系エディタさえも存在しないことだった。おそらく最も一般的なテキストエディタはVimだろう。これは間違いなく必須のツールであり、私が試したほかのディストリビューションには必ず含まれていた。Googleで少し検索してみると、Grafpup開発者の想定しているテキスト編集の方法はMidnight Commanderのテキストエディタmceditを用いることだとわかった。これは、どうにも議論の余地が残る選択である。というのも、Vimなら、最新リリース版でもサイズはソースファイルを含めて7MBに満たないし、同じくらい便利なそれ以前の最近のリリース版であればその半分のサイズで済むからだ。

 Vimの欠如という点以外では、ISOイメージの小ささの割に、利用可能なプログラムとして選ばれている内容に落胆させられることはなかった。基本的に同じ種類のアプリケーションを複数含めることにより、Grafpupはダウンロードの効率性を維持しながらも得意分野をうまくカバーしている。収録プログラムが対象としているタスクは、オーディオの再生、編集、リッピング、エンコーディング、ISOイメージの作成、CD/DVDの焼き込み、テキストの編集とパブリッシング、ベクタ画像とビットマップ画像、静止画と動画のいずれにも対応した画像の作成と編集といったものだ。raw画像については、dcrawとufrawを使うことでほぼすべてのファイルフォーマットがサポートされる。デジタルカメラ写真の処理には、gtkamが使える。アートワーク用には、GIMP, CinePaint、mtPaint、Inkscapeが用意されている。テキスト編集にはScribusAbiwordがあり、オーディオを扱うものとしてはPawdioConverter、Sox、PBcdripperが存在する。また、ビデオのリッピングはpupdvdtoolによって行える。

 pupdvdtoolによるDVDのリッピングとエンコーディングの簡単さを知り、ハードディスクにコピーするつもりだった数本の映画を使ってこのツールを試してみることにした。それらのリッピングと圧縮は問題なく行えた。DVDからのデータの吸い出しには成功したので、今度は映画データの1つからDVDの作成を試みた。pupdvdtoolを使うことで、適切なフォーマットへのファイル変換、チャプターとタイトルの追加、DVDへの焼き込みを行うことができた。作成したDVDはPCでは再生されたものの、私のDVDプレーヤーでは読み込めなかった。ひょっとするとツールの問題ではなく、DVDプレーヤーの側に原因があったのかもしれない。

 Grafpupのオーディオ編集ツール群には明らかに機能面に制限がある。ユーザはオーディオファイルにいくつか軽めのエフェクトをかけることはできるが、このディストリビューションの重点はむしろリッピング、エンコーディング、焼き付けのほうにある。オーディオ編集を徹底的に行うなら、dyne:bolicのような別のライブCDをあたるとよいだろう。

 強力なビットマップエディタGIMPはほとんど誰でも知っているし、ベクタグラフィックソフトのInkscapeも大部分の人は知っているだろう。どちらもすばらしいプログラムであり、この2本だけでグラフィック編集のほとんどの機能がカバーされる。また、CinePaintはフレーム単位でビデオの作成や操作ができるGIMPの派生ソフトであり、アイコンやピクセルアートを作成するためのエディタがmtPaintである。

 Grafpupを使っているときにいくつかの問題に遭遇したが、そのほとんどは容易に解決できたので、このディストリビューションには全体として良い印象を持った。大部分のユーザが必要とするであろうデジタルグラフィックの編集とパブリッシングについては、あらゆる面がカバーされているようであり、しかも洗練されていて無駄がない。Grafpupの想定ユーザにあてはまる人は、ぜひ試してもらいたい。がっかりさせられるようなことはないはずだ。

Preston St. Pierreは、カナダのブリティッシュコロンビア州にあるフレイザー・バレー大学(University of the Fraser Valley)でコンピュータ情報システムを専攻する学生。

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