Linuxレビュー:Absolute Linuxは“絶対買い”なディストリビューションか?

 Absolute Linuxは、定評のあるSlackware Linuxディストリビューションをベースとして作成された軽量型Linux OSであり、ごく最近にバージョン12.0がリリースされたところである。このディストリビューションでは、カーネルバージョン2.6.21.5、IceWMおよびFluxboxウィンドウマネージャ、ncursesベースの各種グラフィカル設定ツールが採用されている。

 その開発目的として掲げられているのは、新規およびベテランLinuxユーザ双方の利用に適する操作性に優れた軽量版Slackwareの構築というものである。実際このパッケージは、安定性とセキュリティを損なうことなく、速度とパフォーマンスを重視したディストリビューションに仕上がっている。

 オリジナルのSlackwareについては、そのインストレーションおよび設定作業(の煩雑さ)が、新規Linuxユーザを遠ざける1つの壁になっていると言っていいだろう。Absoluteではこうした点を改善するため、説明用の各種ドキュメントおよび操作性に優れた設定用ツールが用意されている。たとえばAbsoluteのダウンロードパッケージにはzip化されたISOだけではなく、操作手順に関するテキストファイルおよび、Absolute(およびSlackware)をハードドライブにインストールするためのスクリーンショット付き設定ガイドが収録されたインストールディレクトリが同梱されている。もっとも、このインストラクションの中には説明不足の箇所もあり(cfdiskのステップなど)、最新バージョンの内容が反映されていない部分もありはするが、全体的な操作手順そのものに変更はないので、バージョン番号の食い違いを無視すれば特に大きな問題はないはずである。いずれにせよこのドキュメントについては、新規ユーザが直面するであろう困難を部分的ながらも解消している点を高く評価すべきだろう。

 Absoluteのインストールプロセスでは、Slackwareで使われているncursesベースの対話型グラフィカルインストーラが流用されており、基本的な操作手順については他のLinuxインストーラのものと大差ない。独自の仕様としては、アップグレードオプションが追加装備されており、この機能は旧バージョンを利用しているユーザが重宝するはずだ。その一方で、煩雑なパッケージとカーネルの選択ステップはすべて排除されているが、これは本ディストリビューションでは1種類のカーネルだけが用意されており、バンドルソフトウェアのすべてがインストールされるという仕様によるものだ。またAbsoluteの初回ブート時には、ビデオカードおよびスクリーン解像度の設定を行う必要があるが、私の場合は自動認識された設定内容を確認するだけで済んでしまった。

 システムのブートが終了すると、ターミナルログインの画面に誘導される。その後Xを起動するとデフォルトのIceWMウィンドウマネージャが表示されるが、ここではAbsoluteに用意された多数のテーマや壁紙を選択することができる。

 新規にオペレーティングシステムをインストールした際に行う定番の作業といえば、ユーザアカウントの設定である。Absoluteでのユーザアカウントの追加は、System Toolsメニューからグラフィカルな設定画面を呼び出すことで、簡単に実行できるようになっている。

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Absolute Linuxのデスクトップ

 root用のデスクトップでは、画面右上に「whoami=root」というエンボス文字が配置されたカスタムの壁紙が表示される。またGetting Startedアイコンをクリックすると、User_Login、USB_Stuff、Audio_Helpなどの各種ヘルプファイルの格納されたディレクトリにアクセスすることができる。なお、Package Tool、Create a new user、Configure Xorg、Software Updating、Configure Networkなどのシステム設定ツール群については、通常のユーザ用メニューではなくroot用のメニューにのみリンクが用意されている。

 実際に使ってみたところ、こうしたシステム設定ツール群がrootメニューからしかアクセスできないのは、不便な構成のような気がしてならない。この種のツールは、rootパスワードの入力を必須にした上で、個々のユーザ用メニューからも利用可能にしておくべきではなかろうか。現状の仕様では、ユーザデスクトップをいったんログアウトしてからroot権限を取得してrootデスクトップにログインし、そこで必要な設定変更を施してから、再び元のユーザアカウントに入り直さなければならないからだ。同様にAbsoluteのGetting Startedドキュメントへのアクセスは、ユーザデスクトップからも行えるようにしておくべきだろう。

 Absolute Linuxには、WebブラウザのFirefox 2.0.0.4、メールクライアントのSlypheed、インスタントメッセージのPidginなど、ユーザが必要とするであろう各種のアプリケーションが同梱されている。その他にデフォルトでインストールされるのは、ワープロソフトのAbiword、画像処理用のGIMP、P2P型ファイル共有ソフトのKTorrent、マルチメディア系ソフトのSMPlayer、K3b、Audaciousといったラインナップである。またメニューからは各種のゲーム、計算機、検索用ツール、開発用アプリケーション、ファイルマネージャ、プランナ/カレンダにアクセスできるようになっている。同梱されているドキュメント類も豊富で、Slackwareについての解説書、Linuxの入門書、IceWMのマニュアルなどを始め、開発作業、グラフィックス、マルチメディアなどの個別分野に関する情報も提供されている。実際このディストリビューションは、Linux-2.6.21-5、Xorg 7.2.0、GCC 4.1.2を中核として、非常にバランスの取れたコンポーネント群で構成されていると評していいだろう。

 Absoluteのパッケージ管理は、Slackwareのものから大幅な簡単化が果たされている。たとえばアプリケーションのインストールとアンインストールについては、XPKGTOOLと呼ばれるグラフィカル形式のフロントエンドを介してSlackwareのpkgtoolを操作できるようになっているのだ。またAbsoluteでは、ローカルおよびリモートリポジトリからのパッケージのインストール、アップグレード、アンインストールを処理するための、Gslaptという洗練されたパッケージ管理ソリューションが同梱されている。その実態は、Debianのapt-getと同様の操作を行うslapt-getに対するグラフィカル形式のフロントエンドである。

 Absoluteでは、ポータブルデバイスの取り扱いを簡単化することも目標の1つに掲げられており、リムーバブルメディアのマウントを自動処理するためのdbus、HAL、DevTrayが同梱されている。DevTrayはパネル型アプリケーションの一種で、通常のIceWMパネル下部に配置される矢印パネルをクリックすると、DevTray本体がスライド表示される。そこに一覧されている中から目的のデバイスをクリックすると、DevTrayによる自動マウントが行われ、当該ディレクトリのコンテンツがRoxファイラ上に表示されるという仕組みだ。またこれらのアイコンを右クリックすると、アンマウントやイジェクト用のオプションメニューが表示される。こうしたDevTrayの機能は非常に使い勝手がいいのだが、一部のデバイスに関してはユーザの書き込みパーミッションが得られないなど、若干の不備も残されている。

 DevTrayの動作にはautomountデーモンが必要であるが、これはデフォルトで有効化される。ところが2度目以降のブート時にこのデーモンが起動すると、/etc/fstabファイルの内容がCD-ROMドライブなどのリムーバブルメディアデバイスのエントリのみで上書きされてしまうのだ。これによりハードドライブに対するエントリは削除されるため、システムは起動不可能になってしまう。実際、私が最初にリブートしてみた際には、メンテナンスシェルの画面になってしまった。標準出力に提示されていたのは、superblockが読み込めないのでfsckを実行してみろという旨のメッセージである。新米ユーザであれば、この段階でAbsoluteを見限っても不思議ではないだろう。私の場合は、数分間の検討の後、他のシステムを用意して何度かリブートを繰り返すことで問題点と解決法を特定できた。私が推奨する対策は、初回ブート時にAutomountオプションを無効化しておくことで、具体的な手順としては、root権限を取得してからSystem Tools → Configuration → Run Services Menuを選択して必要な設定をしておけばいいが、こうした措置を施しておかない限り、2回目以降のブート時にシステムは起動しなくなるはずである。

 今回の試用レポートの過程では、先のものとは異なる理由で別システムのブートに頼る事態に遭遇している。Absoluteに同梱されていたNdiswrapper(Windows用無線LANドライバをLinuxで利用するためのラッパプログラム)をmodprobeで操作したところ、「Invalid module format」エラーが表示されてしまったのである。この件に関しては、SourceForge.netから最新の安定版Ndiswrapperをダウンロードしたところ、問題なくインストールすることができた。その後は、手元にあったWindowsベースのワイヤレスEthernetチップを使用できるようになっている。

 CPUスケーリング(CPUの処理速度を下げて電力消費を抑える機構)については、汎用governorおよびCPU固有のモジュール関連の処理をmodprobeで実行してから、必要なgovernorを/sys/devices/system/cpu/cpu0/cpufreq/scaling_governorファイルに登録することで使用可能となった。バッテリ寿命に関しては、グラフィカル型のモニタリングアプリケーションは用意されていないが、そうした情報は/proc/acpi/battery/BAT0/stateファイルを見ることで確認することができる。ただし残念ながら、サスペンドやハイバーネーション機能に関しては使用できないままである。

 残りの試験項目に関しては、特に大きな問題に遭遇することなく進行した。私の経験上ラップトップマシンでのテストにパスすれば、たいていのデスクトップマシンで動作するはずなので、今回は手元のHewlett-Packard dv6105ラップトップにAbsolute Linuxをインストールしてみた。結果的にAbsoluteによる、グラフィックス、サウンド、タッチパッドというハードウェア系の検出と設定は正常に自動処理されており、インストール後のシステムおよびアプリケーション群は、いずれも安定かつ高速に動作している。アプリケーション群に関しては、たとえばFirefoxの場合、Flash、Java、その他のビデオサポートなど私の必要とするプラグインが、すべてデフォルトで揃っていた。SMPlayerも私がテストしたすべてのビデオフォーマットを再生できている。その他の特長としては、カスタム化された各種のスプラッシュ画面、『ロードランナー』からサンプリングされた“ミッミッ”という起動音、操作性に優れたメニュー構成、グラフィカル設定ツール、豊富なドキュメント類も評価しておくべきだろう。

 これらの長所と短所を比べれば、長所の勝ち越しと見なしていいはずである。実際私はAbsolute Linuxをかなり気に入っている。このディストリビューションに関しては、開発陣の目指していたものの大半は実現できたのではなかろうか。軽量かつ高速で安定したシステムに仕上がっているからだ。設定ツールは扱いやすく、有用な各種のドキュメント類が同梱されており、特にgslaptの追加は高く評価すべき点である。その一方で欠点としては、ユーザ空間ツールの形態でもう少しマシなACPIサポートを実装してもらいたかったし、また私が発見したautomounter関連のバグについては、これがたまたま私のシステム上で初めて特定できたという訳でもなければ、こんな重大な問題点を放置したまま何故リリースされたのか理解に苦しむところである。

 Absoluteの目指した方向は、本質的に間違っていないはずだ。Slackwareは好きだがKDEは重すぎると思っていたユーザや、Slackwareの設定法に敷居の高さを感じていたユーザであれば、新たに選択すべきディストリビューションとしてAbsoluteを候補に挙げていいだろう。

Linux.com 原文