Microsoftと契約してから、言うことが変わってきたLinspire社CEO

 来月リリースされるLinspire 6.0には、先日発表されたLinspireとMicrosoftの提携の成果が含まれる予定だ。Linspire CEOのKevin Carmony氏によると、Linspireは今回の契約に至るまで約1年半もの間、Microsoftと交渉を続けてきたという。しかし、Novellとの契約が「リップサービス」や「FUD」以外の何物でもないとしてCarmony氏がMicrosoftを非難していたのはほんの7ヶ月前のことだ。

 また「Microsoft Windowsが支配する世界においてLinuxが直面している共通の課題に取り組む」としてLinspireとCanonicalとの提携を発表したのはわずか4ヶ月前のことだ。このような豹変ぶりをCarmony氏はどう説明するのだろうか? Carmony氏によると「Linuxは以前のものよりも優れたものになってきたので、そのような戦術を使う必要がなくなった」のだという。

 Carmony氏によると「現在のLinspireに欠けている部分を埋める」ための取り組みとして、Linspireの新版には新機能が大量に投入される予定になっている。例えば、LinspireとMicrosoft両社のIMとデジタルメディアプレイヤの互換性を高めるためのコーデック、TrueTypeフォント、OpenOffice.org/Microsoft Officeの文書形式の互換性を高めるためのトランスレータなどが含まれることになっている。また、デフォルトのウェブ検索エンジンがWindows Liveに設定されることになるという。さらに今回の契約によって、Linspireのオープンソースベースのシステム上でMicrosoftの技術を使用する法的な権利をLinspireユーザに対して与える特許契約も提供されることになる予定だ。

 Linspireには、多様なコーデック/ドライバ/ソフトウェアを配布することによってディストリビューションの機能性/実用性を向上させるために、Sun、Apple、Intel、Nvidiaといった商用ベンダーやオープンソースベンダと長らく提携してきた実績がある。またLinspireには、ディストリビューションの機能を増強するためにユーザがダウンロードすることのできる、オンラインの20,000以上ものアドオン/プログラム集がある。

 Carmony氏は、Microsoftとの今回の契約が「より優れたLinuxを配布するのに役立ち」、Linspireのユーザ体験が向上するとしている。

奇妙な連合?

 とは言えLinspireとMicrosoftとの間には、訴訟の結果Microsoftからの2000万ドルの支払いと引き換えにLinspireが自社のディストリビューションの名称「Lindows」を使用する権利を失うに至ったという苦い過去がある。そのような過去を考えると、両社の連合というのはありそうにないことのように思われる。しかしCarmony氏は両社の間にまだ何らかのしこりが残っているという見方を否定している。AP通信によるとCarmony氏は「私個人としては、Linuxの初期の発達段階においてLinuxを採用した理由は『LinuxがMicrosoftではないから』ということが主だったが、現在ではそのような時期は過ぎた」と述べたとしている。

 考え方が変わったきっかけをわれわれが尋ねたところCarmony氏は、「Linuxは以前のものよりも優れたものになってきたので、そのような戦術を使う必要がなくなった。Linuxは今ではもう立派に成長した。今ではLinuxを採用するためには単に『Microsoftではないから』以外にも説得力のある理由が数多くある。私としては人々がもうそのようなことを言うのはやめることを願っている。そのようなことを言うことにより、Linuxが持つその他の多くの利点が見えにくくなってしまうためだ。またLinuxはPCエコシステムの中でやっていかなければならないのであり、MicrosoftはApple、IBM、IntelなどとともにそのPCエコシステムの中で中心的な存在だ。Linspireはそのような『すべて』のパートナーに協力してもらう必要がある。私はLinuxが協力、協働、相互運用することを願っている。そしてMicrosoftも私と同じ考えであることを喜ばしく思っている」と述べた。

 ただしCarmony氏による最近のLinspire Letterでの発言に何らかの兆候が現われていたとするならば、両社の交渉期間中の見通しは常にそれほど楽観的であったわけではなかったと言えるだろう。

 Linspire Letter 2006年11月号においてCarmony氏は次のように述べていた。

Linspireは、メディア/文書/DRMの相互運用性に関する問題を解決しようとMicrosoftと会合を重ねてきた。そしてMicrosoftの口からオープンソースのLinuxと協力したいという調子の良い言葉が数多く出てきたが、それは口先だけで、その後のMicrosoftはわざと動きを遅らせ続け、実際的な成果を出すことを先延ばしにしてきた。(ODF関連の動きを追っている人で、Microsoftが提案した『オープン・スタンダード』が、私利私欲のためではなく本当にオープンだと信じる人はいるのだろうか?)。
そのような過去を考えると当然のことながら、現在議論している相互運用性ということに対しても、Microsoftが本当に積極的に取り組もうとしているのかということに関して私は非常に懐疑的になっている。Microsoftは相互運用性の実現に取り組んでいるような印象を与えるために再び取るに足らないようなことをいくつか行なうだろうが、実際には彼らが最も重要と考えているなわ張り、すなわち途方もなく儲かるMicrosoft WindowsオペレーティングシステムとMicrosoft Officeの領土を守り続けようとするだろう。

資金の流れを追う

 同Linspire Letterの中でCarmony氏は、Novell/Microsoft契約について同氏が主に懸念している点の一つは知的所有権の保証の及ぼす影響だと述べている。「資金の流れを追ってみれば、知的所有権のためにNovellからMicrosoftに対して巨額の資金が流れているだけでなく、MicrosoftからNovellに対しても、要はMicrosoftの知的所有権に対してお金を支払うということのシンボルになることの対価として、知的所有権のための料金を相殺する大きな資金が流れていることは確実だと思う」と述べている。

 一方、今週Linspireが発表した報道資料には「知的所有権についての保証を顧客に提供し、オープンソースソフトウェアとプロプライエタリソフトウェアとの架け橋を構築するための試みにおいてMicrosoftと提携するOSS(オープンソースソフトウェア)ディストリビュータが増えつつあり、今回Linspireもその一つとなった」と書かれている。

 なお、LinspireがMicrosoftからライセンス権を購入するのか、それとも、MicrosoftがLinspireの開発に対して何らかの形で資金提供を行なうのかという問いに対してCarmony氏は「LinspireとMicrosoftが締結するライセンス契約についての資金的な内容は非公開」であると答えた。

 またMicrosoftがNovellやXandrosと締結した契約と今回Linspireと締結した契約との違いについての説明を求めたところ、Carmony氏はコメントを控え、代わりにLinspire Letter最新号を指し示した。Linspire Letter最新号によると「各社は異なる分野を重視している。例えばLinspireのMicrosoftとの協力では、サーバよりも、デスクトップとノートPCにおけるコンピュータの利用に重点を置いている。Linuxと、Linux以外のさらに大きなエコシステムとの間により強力な架け橋が構築されつつあることは喜ばしいことだと思う」とのことだ。

 さらに、今回の契約がLinspireユーザのニーズに具体的にどう応えるものなのかを尋ねたところ、Carmony氏は再びLinspire Letterに記した通りだとした。「今回の契約は、Windows Media 10のサポート、Microsoft TrueTypeフォント、Microsoftの特許保証、Microsoft Windowsコンピュータとの相互運用性の向上など、他では得ることのできない数多くの利点をLinspire Linuxのユーザにもたらすことになる」。

 Carmony氏は、商用ソフトウェアに焦点を当てた企業との取引をオープンソース企業が行なうということに対して腹を立てるLinspireユーザもいるだろうということを認めている。「私はそのようなユーザの選択の自由を尊重する。しかし同時に、Microsoftを中心としたPCエコシステムのすべてのユーザと相互運用/協力することを選択した私たちの選択も尊重してもらえることを望んでいる。私はデスクトップPCに、限界や制限や選択の自由の抑圧ではなく、より多くの選択肢をもたらしたいと考えている」。

「非常に驚いた」

 予想通りのこととしてLinspireのユーザコミュニティには、今回の発表によって激しい動揺が起こった。長年のLinspireユーザであり、コミュニティ内ではPollywogというニックネームで知られ、この記事でも実名ではなくそのニックネームで呼ばれることを希望したPollywog氏は「非常に驚いた。特に、数ヵ月前にNovellがMicrosoftと契約してから、Linuxユーザはそのことに対して懐疑的かつ非常にマイナスの反応を示していること(LinuxユーザはNovellに裏切られたと感じているようだ)を考えるとなおさらだ」と述べた。

 Pollywog氏は、今回の契約がLinspireにもLinspireユーザにも同様にプラスとなる可能性があることは認めている。「ユーザは、安定したオペレーティングシステムを手に入れることができるようになり、Microsoft Windowsシステムと一緒にLinuxシステムを使用することができるようになり、さらには、もしかすると仮想化ソフトウェアに高いお金を支払うことなくLinux上でMicrosoftのアプリケーションを利用することまでできるようになるかもしれない。大抵のLinuxユーザは、手元のフリーソフトウェアでは開くことのできないメディア形式に遭遇することがあるが、それも過去のことになるだろう」。

 しかしPollywog氏によると、Linspireが現在のユーザ数を維持したいのであれば、大きな障害を乗り越える必要があるという。Pollywog氏によると「今現在Linspireを使っているユーザの中でこのニュースを歓迎しない人たちの多くは、他のディストリビューションへの移行を決意することになるだろう」とのことだ。

 「とは言え、商用Linuxディストリビューションに対しては、現実的な期待をするべきだと思う。政治的/社会的な指針を守って欲しいのであればおそらく、政治的/社会的な要素をディストリビューションの一部としている、UbuntuやDebianのようなディストリビューションを使用するべきだ。商用ディストリビューションは、利益を上げるということを主な目的として存在しているのだから」(Pollywog氏)

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