OpenOffice.orgでデスクトップ・パブリッシング

 「Microsoft Publisherのようなプログラムはありますか」。OpenOffice.orgのメーリングリストではこの類いの質問が定期的に聞かれる。それに対しては多くの場合決まって「ありません」という答えが返り、続いてデスクトップ・パブリッシングにはScribusの方がより適しているという説明が行なわれる。しかし実はOpenOffice.orgには中レベルのレイアウトプログラムが2つ、すなわちDrawとWriterがあり、どちらもその名前が示すよりもずっと多くの目的に利用することができる。

 DrawにもWriterにもテキストのレイアウトのための同じような機能があるが、Drawは画像とテキストとが混在したページやページごとに多様なレイアウトがあるような文書の作成に向いていて、Writerは各ページがほとんど同じレイアウトである大量のテキストからなる文書の作成に向いている。DrawもWriterも、ハイエンドなレイアウトプログラムにあるような微調整を行なうための機能は不十分ではあるものの、プロ並の作品を作成するのに十分な機能を備えている。

Drawを使ったDTP

 Drawは本来的にはベクター画像描画用プログラムだ。しかしDrawのバックエンドの大部分はOpenOffice.orgのプレゼンテーション用プログラムであるImpressのバックエンドと同じものであり、Drawはレイアウト目的にも使いやすい。Impressの文書は通常複数のスライドから構成されるので、他の描画用プログラムの多くとは異なりDrawでは複数ページの文書を扱うことが簡単にできる(ただしページのことを「スライド」と呼んでいるのは分かりにくい)。そのため例えばDrawのデフォルトのビューには、各ページ間の移動に使用することができるページ枠がある。またView(表示)→Master(マスタ)を選択して、全ページに共通するデザイン要素を含むマスターページを作成することができる。あるいはページ内のどこでも良いので右クリックしてPage(ページ)→Slide Design(スライドのデザイン)を実行すれば、文書内にページのテンプレートを読み込んでそれらを選択することもできる。

 Drawの個々のページでは、Insert(挿入)メニューを使って画像やテキスト用の「フレーム」を追加し、それらのフレームを必要に応じてドラッグして移動することができる。精密な位置決めを行なうためには、一時的にページ枠をなくして、ルーラーの目盛りを見ることができるようにしておくと良いだろう。またView(表示)→Grid(グリッド線)→Display Grid(グリッド線を表示する)を実行すればグリッド線を表示することができ、必要であればTools(ツール)→Options(オプション)→OpenOffice.org Draw→Grid(グリッド線)からグリッドの大きさを調節することができる。さらに位置決めを簡単にするためには、View(表示)→Grid(グリッド線)→Snap to Grid(グリッド線で位置合わせ)を選択すれば、フレームを自動的にグリッドの位置に合わせて配置することができる。ただしこの機能はグリッドの目を粗く設定している場合には煩わしいかもしれない。

 フレーム内のオブジェクトは、各オブジェクトを右クリックしてメニューから項目を選択することで編集することができる。文書の中で同じデザイン要素を繰り返し使用する場合には、Format(書式)→Styles and Formatting(スタイルと書式) 経由でスタイルを定義することができる。なおスタイルを活用するのに、要素は似てさえいればまったく同一である必要はない。例えば枠と背景色のみを定義したテキストフレームのスタイルをデザインしておき、フレームの大きさについては必要に応じて手動で調整するということも可能だ。

 OpenOffice.orgスィートに含まれるその他のプログラムと同様に、Drawでは通常テキストと画像テキストとの区別がある。通常テキストは、テキストフレーム内に入力されるテキストであり、そのフレーム内ではちょうどワードプロセッサで編集するのと同じように編集することができる。一方、画像テキストでは、フレームとテキストは一つのオブジェクトになるので、全体としての操作をより簡単に行なうことができる。

 Drawをレイアウトに使用する際にはたいていの場合、通常テキストを利用することになるだろう。右クリックのメニューかFormat(書式)メニューからCharacter(文字)を選択すると各文字や文字の間の空白を変更することができ、Paragraph(段落)を選択すると2つの改行で挟まれたテキストブロック全体を変更することができる。また精密な調整を行なうためには、Character(文字)→Position(位置)タブを使用することで、各文字間の空白を変更することができる。なお変更の際は、現在使用中のフォントのデフォルトの空白の大きさに対するパーセントで指定することもできるし、あるいは設定したポイント数だけデフォルトの空白よりも空白を増減することもできる。どちらの方法も、完全に両端揃えをしている行を整える際に、特に単語間の空白に対して使用するのにうってつけだ。またParagraph(段落)→Indent & Spacing(インデントと空白)→Line Spacing(行間の空白)では、同様にパーセントや固定のポイント数を指定して、テキスト行の行間隔を調節することができる。

 Drawでは大きなテキストブロックの位置決めをすることができる他にも、特殊効果を使うこともできる。編集用ウィンドウの下部にあるDrawing(描画)ツールバーのFontwork Gallery(フォントワーク)から基本スタイルを選択して、サンプルテキストを自分の希望のテキストと入れ替えれば良い。なおテキストをクリックすることでベースライン(基線)を調整することができるパレットを開くこともでき、例えば一点をベースにしてテキストをアーチ型にすることなども可能だ。また文字の高さ、アラインメント(配置)、テキストの文字間の空白などを変更することもできる。また、テキストフレームの右クリックメニューからConvert(変換)を選択すれば、通常テキストをポリゴンや3Dオブジェクトの画像テキストに変換することができるようになっていて便利だ。

 ただしDrawにはレイアウト用プログラムとしての限界もある。例えばDrawは複数レイアウトをサポートしているが、選択肢を見つけるためにはページ上で右クリックするということを知っていなければならない。またDrawにはテキストをオブジェクトの回りに自動的に回り込ませることができないので、フレームを手動で配置する必要がある。さらにDrawには表のサポートがない。ただしこれについてはその代替として、複数のテキストフレームを積み重ねて一つのオブジェクトとしてグループ化することはできる。Drawにはまた、フレーム同士をつなげてその中のテキストを自動的に連結させる機能がない。その他にも、Drawでテキストの両端揃えを行なう際には、最後の短い行の見掛けをそこそこのものにするために空白の調整をかなりする必要があるだろう。とは言え、一部の作業を手動で行なうことをいとわなければ、Drawには1ページ程度の文書やパンフレットなどをデザインするのに使う分には十分な精度があり正確にデザインすることができる。また作品が完成したら最寄りの印刷所に送るためなどに、作品をPDFにエクスポートすることもDrawでは簡単にできる。

Writerを使ったDTP

 Writerをワードプロセッサ、つまりMicrosoft WordのOpenOffice.org版だと思っている人は多い。しかしWriterには、OpenOffice.orgのコードがまだプロプライエタリでありドイツのStarDivision社に所有されていた当時、同社の文書作成者たちが使用することができるように作成されたプログラムであったという経緯がある。そしてその結果Writerは、大量の大規模な文書の編集についても安定しており、さらに大規模なプロジェクトに向いたツールを多く備えたものにもなっている。

 とは言えWriterは小規模な文書のレイアウトに向いていないわけではない。向いてないどころかWriterにはDrawと同じ機能があるだけでなく、それらの機能はWriteのものの方がDrawのものよりも精度が高く使いやすいことが多い。例えばWriterではページのスタイルはFormat(書式)→Styles and Formatting(スタイルと書式)の中に他のスタイルとともにまとめられていて、フッタ/ヘッダや複数段組のデザインのための詳細設定など、Drawよりもずっと多くのオプションが含まれている。同様にフレームのスタイルに関しても、オブジェクトにテキストを自動的に回り込ませるための6種類の異なるスタイルが提供されており、またテキスト間の空白の調節を行なうこともできる。さらに重要な点として、テキストフレームを追加する際には、オプションタグを利用してフレームのテキストを別のフレームのテキストと連結させることもできる。また、Tools(ツール)→Options(オプション)→OpenOffice.org→Autocaption(オートキャプション)でオブジェクトのタイプを選択することにより、カスタマイズしたキャプションを自動的に追加することもできる。なおページ内での特殊な位置決めが特に必要ではないテキストフレームは、「セクション」に変更することもできる。セクションとは、メインのテキストフレームの一部の指定された領域で、固有の書式を使うことができる。

 表に関して言うと、Writerでは表をまったく苦労なく挿入することができ、枠やテキストの配置などについての幅広いオプションを利用することができる。Writerでは表のスタイルというもの自体は存在せず、その代わりにAutoformat(オートフォーマット)を定義することができる。Autoformat(オートフォーマット)は、表のスタイルと同じくらい便利だが表の行数や段数の変更についての柔軟性がいくらか低い。

 Writerのまた別の便利な機能の一つとして、リストのスタイルがある。リストのスタイルでは精密なデザインや位置決めができるだけでなく、リストのスタイルはそれぞれが独立したスタイルであるために一度定義すれば多様な段落のスタイルで利用することもできるという長所もある。

 とは言えWriterが真価を発揮するのは、大部分がテキストからなる長い文書を扱うときだ。Tools(ツール)→Footnotes(脚注)からは、脚注と文末脚注についての空白や番号付けなどを詳細に調整することができる。またInsert(挿入)→Indexes and Tables(目次と索引)では、目次、インデックス、参考文献などについてと、それらを作成するためのテキストへのタグ付けに関する、同様に詳細なオプションなどの設定を行なうことができる。なおそのような各要素に専用の文字/段落スタイルを作成したい場合にはF11を入力してStyles and Formatting(スタイルと書式)ウィンドウを開けば、デザインをさらにカスタマイズすることができるようになっている。

 Writerでは書籍レベルの長さの原稿のために、複数のファイルからなる「マスター文書」を使用するためのオプションが提供されている。全原稿が入った一つのファイルではなく複数のファイルに分けて扱うと、通常、ファイルの読み込み/保存やフィールドの更新などの際のOpenOffice.orgの速度を上げることができる。また何よりもWriterのマスター文書は、Microsoft Wordの同名の悪名高い機能とは異なり、安定していて、ファイルが壊れることがない。ただしWriterのマスター文書が抱える唯一の落とし穴は、マスター文書とサブ文書とが同じテンプレートを使用しているように気を配らなければならないという点だ。そうしなければ、マスター文書を印刷のために開くと、再整形が行なわれ非常にうんざりすることになるだろう。

 いろいろな意味でWriterは、Microsoft WordやCorel WordPerfectのようなワードプロセッサというよりは、FrameMakerのような文書プロセッサにより近いプログラムだ。もちろんWriterを使用してメモや5ページ程度の文書を作成することもできるが、Writerの有り難さを痛切に感じることができるのは、マニュアルや書籍や論文の作成に使用したときだ。一方、Drawと同様にWriterにも限界はある。特に、テキストフレームをページスタイルの一部にすることができないということと、クロスリファレンスのシステムが使いにくいということがある。とは言え、プリントアウトした原稿がずっしりと重いときには、Writerのおかげで作業が楽だったと感謝することができるだろう。

まとめ

 DrawにもWriterにも限界や不十分な点はあるとは言え、デスクトップ・パブリッシングの作業の多くにとっては十分すぎるほどの機能が備わっている。実際、No Starch Press社など数社の出版社では、Writerをレイアウトプログラムとして使用する試みが始まっている。この試みは時間を節約するために行なわれているもので、ライターが標準のテンプレートを使用して作業を行なうことができるので、書籍を印刷に回す前にデザイナーが再整形する必要をなくすことができるのだという。

 しかしそういうことであればOpenOffice.orgのデスクトップ・パブリッシングの機能はなぜもっと広く知られていないのだろうか。おそらくそれは、「見えると思っていたものしか見えない」という人間の持つ一般的な傾向が大きな理由だと思われる。つまり「Writer」という名前を聞けば、それは単なるワードプロセッサだとほとんどの人が考えるのは当然のことなのだ。同じようにDrawが単なる画像プログラムだと思われているのも当然のことだ。WriterとDrawにどれほど多くのことができるのかを知るには時間と経験が必要だ。そしてどうやらOpenOffice.orgが誕生してからの6年間という期間程度では、ほんの一部のユーザ以外にはその全機能を把握するのに十分な長さではなかったということなのだろう。

 しかしそういった「OpenOffice.orgのアプリケーションを使ってできること」は、一度把握してしまえば重宝するようになるはずだ。また欠落している一部の機能をカバーするために必要な対処策も、非常に簡単で分かりやすいため大きな問題とはならない。さらに、一つのOpenOffice.orgのアプリケーションで学んだことの多くは、別のOpenOffice.orgのアプリケーションでも直接的に活用することができる。DrawとWriterは、適度に揃った機能群を持つ安定していて完成度の高いアプリケーションなので、デスクトップ・パブリッシングを行なうにはこの2つのプログラムさえあれば事足りることも多いだろう。

Bruce Byfieldは、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalへ定期的に寄稿するコンピュータジャーナリスト。

NewsForge.com 原文