GPLv3にまつわる8つのよくある誤解

 正式公開はまだ数か月先とはいえ、GNU一般公衆利用許諾契約書(General Public License)のバージョン3(GPLv3)には、既にバージョン2とほぼ同じくらい多くの誤解が存在する。

 こうした誤解の一部はGPLv3の長期にわたる公開改訂プロセスに起因しており、このプロセスは根拠のない噂や読み誤りを生むきっかけを数多く生んでいる。また、とりわけ特許やTivo化(TiVoization)に関する文言など、GPLv3における数々の重要条項の大幅な書き直しに起因した誤解もある。現行のドラフトでは既に修正や解決が行われているというのに、以前のドラフトの問題を気にかけている人々がいるのだ。また、フリーおよびオープンソースソフトウェアに反対する勢力による意図的な誤解と思えるものもある。さらに、GPLv3が体裁と内容の点でGPLv2よりも法的文書らしさが増しているという事実も、混乱を大きくしている。しかし、それぞれの誤解の原因がどこにあるにせよ、その多くはメディアと一部のFOSSコミュニティに浸透してしまっている。

 こうした誤解や半面だけの事実と真実とを区別するために、これまで我々は改訂の仕掛け人である関係者たちから話を聞いてきた。フリーソフトウェア財団(FSF)からはコンプライアンス・エンジニアBrett Smith氏、創立者Richard Stallman氏、常任理事Peter Brown氏の3名、そしてSoftware Freedom Law CenterのRichard Fontana氏(GPLv3の主だったドラフト作成者の1人)である。総じて、彼らのコメントはGPLv3の背後にある狙いと、ライセンスとしての最終的な形を明らかにするものだった。

GPLv3はその影響範囲をソフトウェア以外にも拡げ、ビジネスの手法まで規制しようとしている

 確かに、GPLv3はGPLv2の作成以降に登場したテクノロジとビジネス手法を対象にしている。第6e項におけるBitTorentのような「ピアツーピア転送」に対する言及など、否定しようのないものもあるが、特許やTivo化についての新しい文言のように行き過ぎた解釈が見られるものもある。

 しかし、フリーソフトウェア財団は、こうした新しい関心事を方針の変化とはみなしておらず、自然な発展だとしている。Stallman氏は、最新のドラフトが公開された際、GPLの目的は「フリーソフトウェアをプロプライエタリにする」方法を阻止することだと明言した。GPLの最初のバージョンは、ライセンス条項を追加してソースコードを公開しない、という当時知られていたプロプライエタリ化の方法を阻止した。GPLのバージョン2では、特許を利用して制限的条件をユーザに課すというやり方を封じるために第7項が追加された。「現在、これら以外にフリーソフトウェアを実質的にプロプライエタリにしようと試みる方法が2つあることがわかっている。1つはTivo化、もう1つがNovellとMicrosoftの提携だ。だから、我々はこれら双方をブロックしようと試みているわけだ。ユーザの自由を奪う脅威は絶えず出てくるので、今後も我々はその阻止を試みる」(Stallman氏)

 NovellとMicrosoftとの協定の内容でFSFが問題と捉えているのは、NovellのSUSE Linux Enterpriseを再配布するにあたってMicrosoftがロイヤリティを支払うという点、また特許係争が生じた場合にMicrosoftがNovellの顧客だけを保護するという点である。これらはGPLv2の内容そのものには反していないが、その狙いを回避するものである。そのため、こうした提携の阻止に向けてPeter Brown氏はFSFを代表してこう述べている。「我々はGPLv3で何も新しいことはしていない。これは単なる更新だ」

特許に関する新たな言い回しはGPLv3を法的強制力のないものにし得る

 最新ドラフトの第11項は、GPLv3の下でリリースされたソフトウェアの一部の利用者に特許権保護が認められる場合、その保護はすべてのユーザに認められなければならない、としている。この第11項の文言は、2006年11月にMicrosoftとNovellが発表したような協定の阻止を具体的に想定して書かれたものだった。

 先月、Association for Competitive Technology(ACT)が出したある報告書は、こうした文言の追加にあたってFSFはGPLを法的に強制できないものにしてしまう危険を冒している、と指摘した。同報告によると、具体的にMicrosoftとNovellの協定を狙ったものだとすると、この文言を利用して特許を規制して特許権保護を拡大しようとすることから、これは米国の独占禁止法に反する集団ボイコットにあたり、著作権の範囲を不法に拡大しようとしていることになるという。危険なのは、この文言が「著作権の悪用が一掃されない限りはそのような著作権の実施をすべて阻止する、という著作権濫用に対する主張を招く可能性があることだ」と同報告は示唆している。

 ところが、ACTの分析は、この文言を生むきっかけとなったNovellとMicrosoftの協定に注目するあまり、GPLv3の作成者たちが公にどのように発言しようと、この文言自体は特定の協定に限定されたものではないという事実を無視している。また、この文言が適用されるのは特許協定全般ではなく、特許協定とGPLv3との関与の仕方に限られている。これは非常に狭い領域であり、基本的には、15年間で一度も異議の出なかったGPLバージョン2の第7項 ― いわゆる「自由。さもなくば死」の条項 ― の拡張にあたる。

 おそらく今回の新しい文言が過去に遡って適用できないであろうことは、間違いないだろう。そのため、FSFは2007年3月28日より前に結ばれたすべての特許協定を適用除外とする条項(祖父条項)により、それらについてはこの文言を免除することを検討している。

GPLv3を使用する企業には自社特許ポートフォリオの開放が求められる

 2006年9月に出された声明書において十数名のLinuxカーネル開発者は、「GPLv3でライセンスされたプログラムを企業のWebサイトに置くという行為だけで、その企業の特許ポートフォリオ全体が危険にさらされる恐れがある」と主張した。

 しかし、GPLv3のどのドラフトのどの部分を読んでもこうした主張を裏付ける箇所は見当たらない。Smith氏は次のように説明する。「企業がGPLv3の下にあるソフトウェアを配布すると、ユーザがその成果物を利用、共有、改変できるように、そのソフトウェアで実施される特許すべてのライセンス(実施権付与)を求められることになる ― ただそれだけのことだ。彼らが配布するプログラムで実施されていない特許のライセンスまで要求されることはない。また、その特許の権利全体の譲渡を要求されるわけでもない。別のプロプライエタリソフトウェアの開発者によってGPLv3ソフトウェアでの利用を対象としてライセンスされた特許が侵害された場合、ディストリビュータはやはり特許侵害訴訟を起こすことができる」

祖父条項案によってNovellは他の企業よりも優遇される

 2007年3月28日より前に結ばれた協定に対する選択的な特許権保護を認める祖父条項は、GPLライセンスソフトウェアを配布する他の企業よりも確かにNovellを優遇している可能性がある。フリーソフトウェアのディストリビュータのなかでNovellだけが、今後、万一Microsoftの知的財産権の侵害がGNU/Linuxに見つかったとしても、自社の顧客に免除を与えることができるからだ。

 この祖父条項は、基本的には戦術的手段であり、法的および実施上の必要性から止むを得ず含められている。この条項が法的に必要なのは、GPLv3の公開前に結ばれた協定にはおそらくGPLv3が適用できないためである。また、実施の面で必要とされるのは、フリーソフトウェアの他のディストリビュータを混乱させないためだ。Smith氏によると、Novellだけでなく他の企業による特許調停で彼自身が「無害」と判断するものに適用可能な文言の導入について、FSFは慎重を期しているという。「NovellによるGPLv3ソフトウェアの配布を禁じたとしてもフリーソフトウェアのディストリビュータの多くが我々から離れてしまうのでは、たとえ勝利をおさめても犠牲が大き過ぎる」とSmith氏は言う。

 とにかく、この祖父条項についてはまだ最終的な決定がなされていない。Stallman氏、Smith氏、Brown氏は皆、できることなら正式公開版ではこの条項を削除したい、と述べている。しかし、たとえ残ったとしても、この条項がNovellに与える優位性は同社の協定の消滅とともに失われる。「当面は不公平な内容になっていても、数年後には自ずと修正されることになるだろう」とSmith氏は語る。

GPLv3はデジタル著作権管理(DRM)テクノロジを阻害している

 GPLv3の最初のドラフトでは、ロックダウン・テクノロジだけでなく ― 少なくとも理論上は ― 単純なファイル暗号化さえも認めない、という強力な文言が第3項に含まれていた。「技術的手段によってユーザの権利を奪うことを一切認めない」という同項の表題や、おそらくはFSFの「発想からして欠陥(Defective By Design)」という反DRM運動とも相まって、この文言はGPLv3がすべてのDRM手段を否定するかのような印象を作り上げることになった。こうした動きは多方面から非難され、特にLinuxカーネルの開発者たちはソフトウェアの利用法に何らかの制限を課すことに根本的な異論を唱えていた。

 だが、こうした認識はドラフト第3版によって是正されるはずだ。Richard Fontana氏によると、現行ドラフトの第3項には「DRMとの直接的な関連性が一切ない」という。むしろ、今回の第3項は、ユーザによるフリーソフトウェアの複製、改変を妨げ得るある種の法律からユーザを保護することに関係している。1990年末から、一部の国々ではいわゆる「(DRMの)迂回を禁じた法律」が制定され始めた。これは事実上、著作権保持者の従来の権利を拡大して著作物の利用者に損失を与え、公正な利用の権利を骨抜きにしてしまうものだ。例えば、米国ではデジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act)の条項の1つに迂回を取り締まる規定が含まれている。GPLの下での権利を実施してフリーソフトウェアの複製、改変、共有を行ったことにより、迂回を禁じた法律の下でGPLの対象である成果物のユーザが民事または刑事責任を問われた場合に、そうしたユーザを守るためにGPLができるだけのことをしようとするのがGPLv3の第3項である。

 DRMなどTivo化のその他の形態に直接言及した文言は、現行ドラフトの第6項に含まれている。しかし、この項はDRMを禁じるものではなく、「機能する改変後のソフトウェアのインストール」に要求されるロックダウン・テクノロジのソースコードの収録をディストリビュータに求めているだけである。Fontana氏は次のように補足する。「これは過激なアイデアでも議論の的になるようなアイデアでもない。現在LGPL(GNU劣等一般公衆利用許諾契約書)に含まれている特徴を少し一般化したものに過ぎない」

「ユーザプロダクト」の定義はGPLv3を米国外に適用できないものにしている

 最新のドラフトにおける反Tivo化の文言には、「ユーザプロダクト(user product)」という概念が導入されている。その第6項によれば、ユーザプロダクトとは「個人、家族、または世帯」向けに作られた「コンシューマプロダクト(consumer product)」であり、コンシューマプロダクト上で動作するソフトウェアは同項に記された規定に従わなければならない、となっている。Smith氏はこの定義を、「我々に害を及ぼさないある種のビジネスモデルを妨げることなく」フリーソフトウェアに関する主要な問題を解決するための妥協案だと説明する。コンシューマプロダクトの定義において、最新のドラフトは米国のMagnuson-Moss保証法の定義を引用している。この法律は、一部の人々から米国法を他の法域にも押しつけようとするものとして見られている。しかし、Smith氏はFSFの狙いについて次のように語る。「それは具体的な定義の解釈を与えてくれる材料を使って判断を与えることであり、その材料がたまたま米国の法律にあっただけのことだ。我々は、調査の結果に基づき、これがGPLライセンスの国際的な通用範囲を狭めることはないと考えている」

GPLv2のカーネルを用いてGPLv3のプログラムを実行することはできない

 この考え方は、相当な懸念を引き起こしている。というのも、Linus Torvalds氏をはじめとするカーネル開発者がLinuxカーネルではGPLv2を使い続けることになるだろうと宣言しているからだ。しかしSmith氏は、各種ライブラリやシステムコールのプログラミングによってカーネルとのやりとりを行うプログラムがGPLで定義された派生成果物と見なされることは決してない、と述べている。したがって、プログラムはカーネルと同じライセンスを使用する必要はない。また、そうしたプログラムはプロプライエタリであっても構わない。

GPLv3は別のライセンスの増殖を招く

 GPLv3ドラフト第3版の第7項では、「同ライセンスの1つまたは複数の条件からの例外を設けることによって条項を補足する」追加条項の指定が許されている。Smith氏はこの第7項について、GPLとフリーソフトウェアコミュニティで使用される他のライセンスとの相互連携を容易にする狙いがある、と説明する。こうした他のライセンスには、成立することが自明、または法律上の要件になっている規定(例えば、コードに付随する商標については使用権がないといった記述など)が含まれていることが多い。要するに第7項は、「保護された商標の付随したコード部分、または我々がこれまでに認めてきた他の要件を備えたコードを使用しても構わないことを明示的に述べているに過ぎない」とSmith氏は言う。

 第7項で定められている例外が、基本となるGPLライセンスからの各種派生ライセンスの作成に利用できることをSmith氏は認めている。しかし、主としてこうした例外は、もともと別のライセンスを利用していたソフトウェアに対して使われるだろう、と彼は述べる。彼は、たとえその認識に誤りがあっても実際的な問題が生じることは一切ないと考えており、その理由は「第7項では、条項を追加してリリースされたコードを取り出し、そのコードをGPLv3の下でリリースされている他のあらゆるプロジェクトで利用することが可能だからだ」という。

改訂プロセスは続く

 T本稿では、GPLv3ドラフト第3版によって持ち上がった大きな問題だけを取り上げた。より詳細な内容については、ドラフト第3版の注釈付きバージョンを参照してもらいたい。

 GPLv3に対する公開改訂プロセスは、まだ終了していない。最終審査用ドラフトの公開はまだ1か月先であり、FSFはその公開の前後両時点で正式公開直前のフィードバックに基づく中間ドラフトを公開する可能性にも触れている。今のところ、中間ドラフトは公開されていないが、その可能性はまだ残っている。一部の文言、特に特許と祖父条項に関するものは、GPLv3の正式公開までに大きく変更される可能性さえある。

 とはいえ、GPLv3の多くの条項は最終的な形に近づきつつある。たとえ策定プロセスが継続中であるにせよ、GPLv3が正式公開されたときにこの新しいバージョンを使用するかどうかを検討できるように、今からその詳細を自ら学んでおいても早過ぎるということはないだろう。

Bruce Byfieldは、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリスト。

NewsForge.com 原文