Novell CEO、Microsoftとの提携の“真意”を語る

 MicrosoftとNovellが先月初めに発表した技術提携を巡っては、MicrosoftのCEO、スティーブ・バルマー氏が「Linuxユーザーには隠れた負債がある」と発言したことから、Linuxコミュニティを中心に反発の嵐が巻き起こるなど混乱が続いている。そうしたなか、Computerworld 米国版は11月28日、Novellの社長兼CEO、ロナルド・ホブスピアン氏にインタビュー取材を敢行した。ホブスピアン氏は、契約成立までの裏話と、バルマー発言に対する見解を率直に語ってくれた。


すべての始まりは「仮想化」技術の連携

──Microsoftと合意に達するまでの経緯について教えてほしい。だれが、いつ、Microsoftに接触したのか。

 今年5月に、私自身がMicrosoftのCOO(最高執行責任者)であるケビン・ターナー氏に電話をしたのが最初だった。ターナー氏とは彼が(Novellの顧客であった)ウォルマートのCIOだった当時に知り合った。
 私はターナー氏に「かつての顧客とベンダーとの関係だった当時に立ち戻って、顧客のニーズについて話がしたい。もし、私があなたのところに訪ねて行って、 Linux上の仮想化について話をしているときにMicrosoftの担当者がやって来てWindowsの仮想化について話し始めたとしら、あなたは何と言うだろう」と問いかけた。
 するとターナー氏は、「そのどちらも欲しいと答えるはずだ。争いに巻き込まれるのは避けたいので、それを実現する方法を検討してほしいと双方に伝えるだろう」と答えた。そこで私は、「電話したのはまさにそのことを話し合うためだ。どう協力し合えば、そうした仮想化の環境を実現できるだろうか」と持ちかけた。
 企業顧客のIT部門は、いずれJ2EEスタックと.NETスタックの両方を持つようになるはずだ。自分がCIOなら、「(NovellとMicrosoftが)この2つをいかにうまく連携させて、自分たちの仕事を軽減してくれるのか」ということを求めるだろう。私は、仮想化がこれまでとは違った手法によってこの連携を可能にすると考えた。昔の顧客に電話して、顧客の立場で話をした。それが今回の契約交渉のすべての始まりだった。その後、合意に至るまでには紆余曲折があった。

──Microsoftの実際の反応はどのようなものだったのか。

 ターナー氏は予想どおり、「まったくそのとおりだ。自分が顧客ならそう考える」と答えた。また、「Microsoftがノベルと協力し合うという構図は、かなり画期的だ」とも言ってくれた。両社間は長い間“愛憎”の関係にあった。それは、互いに憎み合うことが大好きという意味だ。その後ターナー氏は、バルマー氏と担当チームとともに顧客の立場からこの問題を解決するアプローチを検討した。1週間後、私たちはシカゴで仮想化について話し合った。


バルマー発言には「失望」

──バルマー氏の「隠された負債」発言についてどう思ったか。不意打ちを食らったと感じたのではないか。

 このような不意打ちはうれしくない。前後関係が考慮されずに取り沙汰されることがあるので、私自身は今回の発言に対して過剰に反応することはしなかった。ただ、失望したのは確かだ。この契約の核心は技術協定にあり、顧客のために何を成し遂げるかにあったからだ。Microsoftもそれに専心していると、私は認識している。
 実際にMicrosoftのボブ・マグリア氏(サーバ&ツール事業部門担当上級副社長)とは定期的に電話会議を開いており、適切なタイム・スケジュール内にすべての細目を決定すべく順調に進めている。
 当社は、特許侵害は一切ないと認識しており、いかなる特許侵害の主張にも同意するつもりはない。知的所有権に関する提案は、彼らが話し合いたい議題の1つとして掲げたものだ。私たちは「もちろん、知的所有権についても話し合いたい」と同意した。そして、当社とMicrosoftの知的所有権に関するポートフォリオを検討した結果、Microsoftは当社に1億800万ドルを、当社はMicrosoftに4,000万ドルを支払うことになった。
 これまでわれわれは自社の立場を変えたことは一度もない。気がかりだったのは、12〜18カ月前に、ある大手小売チェーンの顧客をMicrosoftに奪われたことだ。その会社とは全社システムをLinuxで統一する契約交渉を進めていた。彼らは特許侵害や補償の問題を過度に嫌った。当社としてはとても残念な出来事だった。Linuxが負けたのだから……。それ以後、同様のことを3回ほど体験した。

──企業がLinuxを導入した場合の知的所有権侵害のリスクについて、MicrosoftはFUD(恐怖、不安、疑念)を煽っていると思うか。

 彼らは市場における自分の地位について、彼らなりの意見を主張した。

──あなたはバルマー氏の発言に対する公開書簡をNovellのWebサイトに掲載したが、直接本人に電話で事情説明を求めたのか。

 確かにそうした会話はあった。実際、バルマー氏も、マグリア氏も、法務顧問のブラッド・スミス氏も非常に協力的で、当社の立場を理解してくれた。Microsoftの経営陣は非常に誠実に仕事をしてくれており、高く評価している。


「心残りはLinuxコミュニティに真意を伝えられなかったこと」

──Microsoftとの提携に含まれる特許協定は、Novellの顧客を最優先したものだと言えるか。

 まったくそのとおりだ。顧客は今後(特許侵害について)気にせずに済むようになるので、彼らにとって望ましいことだと思う。ただ心残りなのは、当社の考え方を(Linux)コミュニティに向けてもっと明確に説明すべきだったということだ。このメッセージの伝達には難航した。

──特許を再調査してみて、LinuxソースコードにMicrosoftの特許を侵害している個所はなかったのか。

 当社から見て、いかなる侵害も認められなかった。しかし、「侵害の可能性は一切ない」と断言できるのかと問われると、「よくわからない」としか言いようがない。当社は一貫したプロセスに基づいて完全な再調査を行ったわけではないからだ。Microsoft側はしたかもしれないが、当社はそこまで行っていない。あなたの質問は、Novellが徹底した再調査を行ったという前提に基づいていると思うが、そうではない。答えは「ノー」だ。

──Microsoftとの話し合いで議題に上ったものの、最終的にうまくいかなかった事柄はあるか。

 初期の段階では、双方の主張は、おそらく互いに「許容できない」と思えるものがとても多かった。わたしが許容できないと考えたMicrosoftの主張の1つは、「LinuxはWindowsのゲストとして動作できるようになるが、その逆(Linux上でWindowsを走らせること)はない」というものだった。とにかくこれは話にならなかった。この件に関しては、顧客自らが決定できるよう、双方向である必要があった。

──実際に話し合ったが、うまくいかなかった事柄は。

 わたしたちが高い関心を寄せたのが、Visual StudioなどMicrosoftの一部のツール・セットを当社のLinuxプラットフォームで走らせるというものだった。結果的にうまくいかなかった。

──絶えずささやかれいるLinux対応Microsoft Officeバージョンの開発についても話し合ったのか。

 これも、先ほど話したツール・セットの中に含まれる。これもうまく運ばなかった。経営幹部として、Microsoftが自分たちのフランチャイズを守ろうとしていることは理解できるし、またそれを十分に尊重したい。

──今回のNovellとMicrosoftの提携は、GPL(GNU General Public License)バージョン3によって無効とされるとの一部報道もあるが、Novellの見解はどのようなものか。

 この問題については現在検討している最中であり、次の段階についての公式見解はまだ出していない。


(ダン・テナント/Computerworld オンライン米国版)
米Novell
http://www.novell.com/

提供:Computerworld.jp