「GPLv3は危険」~複数のLinuxカーネル開発者が共同声明

本日、GPLv3(GNU一般公衆利用許諾書バージョン3)を起草中の関係者に衝撃が走った。というのも、かなりの数の著名なカーネル開発者が共同でGPLv3を酷評する「GPLv3の抱える危険性と問題点」と題した声明文を公表したのだ。

声明文にその署名が見られる開発者は、James Bottomley、Mauro Carvalho Chehab、Thomas Gleixner、Christoph Hellwig、Dave Jones、Greg Kroah-Hartman、Tony Luck、Andrew Morton、Trond Myklebust、David Woodhouseの総勢10名だ。

開発者たちはGPLv2を(他のフリーなオペレーティングシステム以上の成功をLinuxへともたらした)カーネル開発コミュニティを育んだ土壌として高く評価した。そしてこのGPLv2の成功を理由として「明白な問題点を訂正するバグ修正か、あるいは切迫した危険性に対応する改訂である場合を除き、当該ライセンスへといたずらに手を加えることを検討されるのは不本意である」と表明した。

声明文ではGPLv3のドラフトに対し異議を唱え、「GPLv3が問題解決の対象としているGPLv2には、実際的で明確な問題点は何も存在しない」のにも関わらず、GPLv3のドラフトの方が複数の問題点を新たに持ち込んでしまっていると指摘している。

GPLv3の問題点

声明文は特に、GPLv3ドラフト中の3つの条項を反対すべき問題点として名指ししている。具体的には、「DRM」条項、「条件の追加」条項、GPLv3ドラフトの「特許」についての条項の3つだ。

まず一つめの「DRM」条項(「Tivo化」条項とも呼ばれている)に関してカーネル開発者たちは「不必要」だと宣告したが、これは特に驚きに値することではない。Linuxの作者であるLinus Torvaldsも折りにふれ、この「DRM」条項に対する嫌悪を表明してきた。カーネル開発者たちは、DRMの使用が「深く憂慮すべき」事案であるという点には同意するものの、声明文の 第3節で説明したように「使用目的の自由は(GPLの主張する数々の自由の中においても)特に必要不可欠な自由であるということを鑑みれば、使用目的についての制限を含むライセンスはどのようなものであれ認めることは決して許されない」としている。

もう一つの懸念として挙げられているのは、GPLv3の内容に追加条件を付け加えることを許可する条項だ。開発者たちによると、ライセンスへの追加条件の選択が可能になることにより「GPLv3は追加条件の選択肢を選り好みした結果のごちゃ混ぜ状態になってしまい、それを法的に正しく整理分類するというのは、Linuxディストリビューションにとって悪夢となるだろう」とのことだ。

そして声明文が指摘しているおそらく最も重要な点は、GPLv2において「(以降のバージョンのGPLも)その精神において現バージョンと同等のものになる」ということが約束されていたはずだという点だ。開発者たちによると、それにも関わらずDRM条項を追加するということは「これまでに寄与された作品のすべてを(DRM反対という)FSFの政治的な目的に役立てるために勝手に用いることに等しい」と言う。そしてそれは上記の約束をFSFは守るはずだと信頼していた者に対する「重大な裏切り行為」だとしている。

なお今回FSF(Free Software Foundation)とEben Moglen氏に取材を申し込んだが、現時点では声明文についてのコメントは差し控えるとのことだった。

カーネル開発者へのアンケート

今回の声明文に加えてBottomleyは、29人のカーネル開発者に対する非公式なアンケートの結果も公表した。アンケートではカーネル内でのGPLv3の使用をどの程度希望するかという点について、「プラス3点」(GPLv2の使用は希望しない)から「マイナス3点」(GPLv3の使用は希望しない)で投票が行なわれた。

ところで回答者はどのように選ばれたのか?TorvaldsがLKML(Linuxカーネルメーリングリスト)へ投稿した説明によると、基本的には、カーネルパッチのsigned-off-by署名を多い順に並べたときに「最初の一画面分の名前」(プラスAlan Cox)から選んだとのことだ。

アンケートの結果、回答した開発者の中でこの件に関し中立を保ったのは唯一David S. Millerのみだった。Miller以外の開発者(Torvalds、Alan Cox、Ingo Molnar、Al Viro、Arjan van de Venなど残りの全員)はGPLv3の使用についてマイナスの評価をした。つまりカーネル開発者の誰一人としてGPLv3の使用についてプラスの評価をしなかった。

なお、開発者たちのほぼ全員がGPLv3の使用についてマイナスの評価を表明したにも関わらず、声明文に名前を記載したのは10名のみだった。この点についてBottomleyは、声明文においてLKML上でのGPLv3についての議論の中で持ち上がった問題点のすべてを含めることが不可欠だとは思うものの、持ち上がった問題点のすべてを支持することは気が進まない開発者もいたためと説明した。

何故、今?

われわれはLKML(Linuxカーネルメーリングリスト)に声明文を投稿したカーネル開発者であるBottomleyに、声明文と今のタイミングでそれを公表した理由について取材した。Bottomleyは声明文を今の時点で公表した理由が特にあったわけではなかったとしながらも、強いて挙げるとすれば、GPLv3に関して「十分な量の議論が行なわれていなかった」ということとGPLv3の起草プロセスが「本当の議論がなされず本来あるはずの異論も提起されないままに進んでいるようだ」ということが今ちょうど明らかになってきたからだと説明した。

TorvaldsはLKMLへのメールの中で、Bottomleyの意見に同意している。

僕の個人的な意見を言うと、 公開議論の大部分が、 GPLv3に関して政治的な動機 を持った人たちによって行なわれているなあということ。 だからとても声の大きなGPLv3支持者たちがいる。 だけど大量の開発を結局のところ実際にやってる人たちっていうのは 普通は彼らほど口が達者じゃないし、実際その意見はほとんど知られてないって気がする。

だからある意味このアンケートは、 FSFの意見は実際の開発者の(しかも、かなり多数の)意見を 必ずしも代弁してはいないってことを、 実際の作業をたくさんやる人たちが知らしめる手段だったってこと。

Bottomleyはまた、(もともとは声明文をそれ自体で公的な発表とするつもりはなかったが)カーネル開発コミュニティが閉じたものではないため議論がオープンに行なわれたという点を指摘した。この点は、議論が公の場とGPLv3委員会内での非公開な場との両方で行なわれているGPLv3の起草プロセスとは対照的だ。

なおTorvaldsはGPLv3起草プロセスへ参加するよう招かれたが、断ったかあるいは返事をしなかったらしいとのことだ。Bottomleyは、きちんと皆に確認したわけではないがと念を押した上で、GPLv3起草プロセスへの参加を要請されたカーネル開発者が他に誰かいたなどとは聞いたことがないと言った。

またBottomleyは、たとえカーネル開発者たちがGPLの新バージョンに対して非常に肯定的であったとしても、どうやったらその新しいライセンスへ移行することができるのかは未解決のままだと指摘した。なぜなら、Linuxカーネルは、ほとんどのプロジェクト(特にFSFによって管理されているもの)と同様に「以降のどのバージョンでも」条項なしのGPLv2の下でライセンスされているからだ。そのためライセンスを変更するためにはカーネルの著作権保有者全員から同意を得なければならないが、それは困難な作業になると思われるからだ。

起草プロセスを放棄?

今回の声明が果してGPLv3の起草プロセスに対しどの程度の影響があるのかは不明だ。Bottomleyは、新ライセンスに対し十分な異議が出た場合、 FSFが新ライセンスの正式版のリリースを延期することを望んでいると言う。

声明文では、GPLv3が原因でプロジェクトやベンダが「矛盾しないライセンスを得たいがために」パッケージをフォークせざるを得なくなり、「われわれがよりどころとする全オープンソース世界が、小国へと分裂してしまう」ことにもなりかねないという懸念も述べられている。

そのような小国への分裂という事態を避けるため、声明文の執筆者たちはFSFに対し「目下のGPLv3の起草プロセスを放棄」するようにと求めている–「手遅れになる前に」。

NewsForge.com 原文