先行技術では解決しないソフトウェア特許問題

OSDL(Open Source Development Lab)には米国特許局に既知のアイデア(“先行技術”)を知らせてそのようなアイデアを扱う“質の悪い”ソフトウェア特許の発行を阻止しようというプロジェクトが存在する。フリーソフトウェアリポジトリ内のフリーソフトウェアパッケージに注釈を付けて、そこに含まれるアイデアを簡単に見つけることができるようにするというのである。これがよい思いつきのように聞こえるのは、問題がよく見えていないからだ。GNU Projectはこのプロジェクトに参加していない。この問題をもう一度よく考えてみよう。

このようなプロジェクトではソフトウェア特許からプログラマを現実に守ることはできない。不合理なソフトウェア特許、つまり先行技術に基づけば法的に無効にできるような特許だけを対象にしているからだ。しかし、最大の危機は不合理な特許よりも、むしろ我々が先行技術を持たないような特許からもたらされるのである。

OSDLプロジェクトはこの点をよくわかっていない。我々のところに送られてきた案内を見ると、“不良”特許とは無効なソフトウェア特許のことで、新しいアイデアを扱っているソフトウェア特許はOKと言っているように聞こえる。しかし、彼らが言葉をどう選択したかよりも、同プロジェクトそのものが問題なのである。

出来損ないなだけならまだしも、同プロジェクトは裏目に出る可能性もある。先行技術について知らされた特許庁は、その先行技術を分析するときできるだけ手を抜く。裁判所は特許庁が調査した先行技術については、検討を差し控えるのが普通だ(正式の法的ルールというよりも、慣例となっている)。したがって、特許庁がまだ調査していない先行技術、それを見つけることにこそ、我々が法廷で特許を無効にするチャンスがある。その上、特許出願者はこの情報を利用して、特許請求を無効にするような既知の先行技術を避けつつ、重要な活動だけを含むように請求項を書くことができるのである。特許庁は特許出願者がそれを行うことに手を貸したがっている。

このプロジェクトの一番の欠点が問題解決能力の欠如にあるのなら、何もないよりましとも言える。だが、それが裏目に出る可能性があるなら、ないよりもなお悪い。

一部の大企業はソフトウェア特許が引き起こす問題を認識しつつある。しかし、彼らは研究所と大量の特許ポートフォリオを抱えているので、ソフトウェア特許を廃止したいとは思わない。彼らはトラブルの原因となりそうな不合理な特許だけを排除したいと考えている。そこで、“特許の品質を改善する”対策を要求しているのである。

プログラマが仕事を安全に行うためには、ソフトウェア特許の撤廃がどうしても必要だ。この点にこそ我々の運動の方向性がある。多分、OSDLのプロジェクトの最大の問題は、ソフトウェア特許問題を解決するように見えて、実際はそうなっていないことにある。油断すると、真の解決策への圧力を抜かれるおそれがある。

我々が本当に必要としているものから我々の注意を逸らす、その場しのぎの無理筋な対策を放置してはならない。我々は、ソフトウェア特許問題に正面から取り組む真の解決策を求めなければならない。それこそがプログラミングを安全なものにするのである。

Copyright 2006 Richard Stallman
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