新時代の宗教

オープンソースソフトウェアの方法論、原理、実践手法は、標準規格情報収集など、ほかの領域にも採り入れられ、飲料および医療の業界でも同様の話が持ち上がっている。さらに、オープンソースの哲学は宗教にも存在する。それは、聖職者層から与えられた教義を受動的に受け入れるのではなく、内輪の秘密を持たず、皆が力を合わせて相互に受容と恩恵をもたらす教義を生み出す協力の思想といえよう。

参加者が協力して作り上げるため、オープンソースに基づいた宗教の大半は新たに創設されたものであり、その多くは基本的にインターネットベースで活動している。最もよく知られているのが、「世界初のオープンソース宗教」を謳っているYoismだろう。Yoとは、この集団が「聖なる神秘」と呼ぶものに与えられた名前であり、Yoanと呼ばれる信者たちは、権威のみに基づく真理を拒絶し、コミュニティ、進化、民主主義、環境保護、発展に強い関心を寄せている。また、Yoanは、自分たちはYoの存在を証明できるが、Yoとは「無限で不可知な存在」である、と主張している。Yoanと、「Yoの道」に従う人々は、Open Source Truth Processに対するこだわりを持っている。これは彼らが、Harvard’s Kennedy School of GovernmentのThe Center for Public Leadershipの教職員および学生と協力して開発したものだという。

大勢の人々の意見によってオープンソースソフトウェアが継続的に変化し、改善されていくのと同じように、Yoanは、このOpen Source Truth Processを使って、各信者の実体験に基づいてコミュニティの経典と信仰を発展させようとしている。YoismのWebサイトには「我々のTruth Processの前途は、多様な人生経験を持つ多くの人々がより深く関わってくれるかどうかにかかっている」と宣言されており、同意できない点があればコメントしてほしい、と訪れた人々に呼びかけている。

“Open Source Order of the Golden Dawn”(OSOGD)は、秘密結社「黄金の夜明け団(Hermetic Order of the Golden Dawn)」から分化した、異色のコミュニティだ。黄金の夜明け団の支持者によれば、彼らが扱っているのは宗教ではなく、宗教的な耐性を強化する魔術の体系であり、今や原典の大半が各地で公開されてしまっているとはいえ、その特殊な知識 ― 魔術の独占的な集大成 ― はそれまでずっと秘密にされてきたという。Sarn Webster氏が創設したOSOGDでは、黄金の夜明け団による魔術の「ソースコード」が誰でも入手できるようになっている。「スピリチュアリティは至るところに存在するものであり、いかなる集団や個人もスピリチュアリティに触れる権利を所有したり、支配することはできない、という思想の下でOSOGDは創設された」とWebster氏は述べている。「十分に修練を積んだ術者であれば、特定の目的を果たしたり、技の効果を高めるべく100年以上も取り組まれてきた成果を活用するために、秘術に手を加えることができる」

OSOGDのメンバーの多くは、コンピュータ業界にいる、とWebster氏は話している。「彼らが、十分に機能することが公の場で実証された思想的な基盤として、オープンソースソフトウェアの運動に注目するのはごく自然なことだ」

オープンソースの思想を採り入れているもう1つの団体として、キリスト教の新興教会派から派生した宗教団体があり、この団体は、自らの取り組みを「オープンソース神学」と呼んでいる。創始者のAndrew Perriman氏によると「新興の教会というものがあるなら、新たな神学も緊急に必要になるという確信から」オープンソース神学の運動を始めたという。彼らが語る新たな文化の世界において、オープンソース開発者は ― 少し変わっているが寛容で、これまでの偶像のイメージを打ち破る ― 正義のヒーローであり、闇の領域を支配するMicrosoftなど、商用ソフトウェアを作り出す人々は悪者だ。Perriman氏は次のように語っている。「キリスト教会は、この現代文化の中で必死に「信用を再構築」しようと努力しているが、そのためには、いわゆる「権威者」が作り出した神学を、一般の人々の対話から生まれるオープンソースの神学に変える必要がある。この取り組みは、試験的なものであって終わりのないものだ。また、固定された定義付けを確立することよりも、聖書と現実との間で思慮深く建設的な対話を育てていくことに注目している」

Perriman氏が初めてオープンソースのソフトウェアと考え方に出会ったのは、Postnukeを使い始めたときだったという。「何らかの神学の論文をWebに投稿し、それについて議論する場を作れないものか、とその方法をずっと探していた」と彼は言う。「神学、特に福音主義のものが、ある種の変遷あるいは危機に瀕しており、新しい手法、新たな説明、昔からの真理を定式化する新しい方法、そしておそらくは古い真理の過激な見直しさえ必要になっている、という意識が高まりつつある中で、あまりコストのかからないソフトウェア・ソリューションを探求していた。この再考の過程は、今でこそ「新興神学」や「新興教会」という名前で呼ばれているが、2、3年前までは、モダニズムから、人々の想像力をしっかりとらえたポストモダニズムへと向かう文化的、思想的な転換だったのだ」

宗教的な信念体系は、コンピュータのプログラムに非常によく似ている、とPerriman氏は話を続けた。「複雑で進化し、その取り組みの多くは一般の利用者の目には見えず、場合によっては誤りが含まれていながらも機能する。我々はこれを利用して、さまざまなことを行い、考えや価値、行動を生み出している」と彼は語る。「それはまるでコンテンツ管理システムのようだ。いろいろな処理を行い、アイデアを管理し、その過程で可能性を作り出すと共に制約を課すためのフレームワークを提供する。新興神学の背後には、信者のコミュニティが世界観の生成、管理、実践に用いるプロセスは最終的な結果とは大きく異なったものになる、という仮定が存在する。

「新興教会は、深遠なものと表層的なもの、世界的なものと局所的なもの、洗練されたものと個人的なもの、実践的なものと神秘的なもの、といった多様な対話を通して、神学そのものを(一方的に授けるのではなく)実践し、そして、これからの世界に役立つ聖書の教えを再生させる過程に積極的に携わりたいと考えている。オープンソースのメタファは、おそらくこのすべてに完全にあてはまることはないだろうが、こうしたすべてのことの中心にある熱望と確信の一面は捉えているだろう」

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