FOSSプロジェクトを法の庇護下に置くSoftware Freedom Law Center

現在、Software Freedom Law Center(SFLC)は、FOSS(フリー/オープンソースソフトウェア)プロジェクトが金融および法的サービスの無償利用と、非営利組織としての体制維持を容易に行えるよう支援するプロジェクト、Software Freedom Conservancy(SFC)を発足させようとしている。

名称に保護団体(Conservancy)が入っているのはなぜだろうか? SFLCのリーガルディレクタ(法務理事)、Dan Ravicher氏によると、この法律センターがFOSSプロジェクトに最初に勧めていることの1つが法人組織の形成だという。いくつかのFOSSプロジェクトに取り組んだ結果、SFLCの努力は半ば空回りしていることが明らかになった。「我々は多数のクライアントが法人を設立して非営利組織化を果たす手助けをしてきた。『もう何度も繰り返し行ってきた。もっと容易にできないものだろうか?』というのが本音だった」という。SFCの発足により、各プロジェクトは、個別に非営利組織の申請をするのではなく、SFCによる法的支援の下で活動できるようになる。

発足時にSFCが代理人を務めることになるのは、ほんの一握りのプロジェクトに過ぎないが、1年もすれば「10件や20件」のプロジェクトがSFCの保護下にあっても驚くにはあたらない、とRavicher氏は語る。彼によると、BusyBoxuClibc、SurveyOSが参加を予定しており、Wine Projectも参加を検討しているという

SFCが提供するもの

SFCは各プロジェクトに代わって法人として機能し、非営利体制の下で各プロジェクトが助成を受けられるように便宜を図る。Ravicher氏によると、プロジェクトは法人としてのさまざまな活動によって「実質的な恩恵」を受けられるという。その1つとして、法人化によって個人的債務を負わずに済むようになる。たとえば、プロジェクトが特許侵害で企業から訴えられたとしても、賠償で要求されるのは法人の財産だけであり、プロジェクトに携わる個人の財産にその影響が及ぶことはなくなる。

現在、SFCには501(c)3で規定されている非営利組織の資格はないが、Ravicher氏によると申請手続きを進めている最中だという。申請が受理され次第、この資格はSFCに参加しているすべてのプロジェクトに適用される。Ravicher氏は、今後はFOSSプロジェクトの個々の開発者よりも法人に寄付が集まるようになるだろう、と述べている。

BusyBoxの開発者、Rob Landley氏によると、彼のプロジェクトは既にSFLCと協力関係にあるという。GNU GPL(General Public License)を守らずにBusyBoxのコードを組み込んで利用している企業に対処するためだ。

BusyBoxプロジェクトはSFCの金融面にはそれほど興味がない、とLandley氏は話している。「いずれにせよ、資金はないし集めるつもりもないので、SFCに銀行口座の管理を任せることができる、といったところであまり気にならない」

しかし、そんなBusyBoxにとって、GPL侵害への対処はこれまでずっと大きな問題だった。「我々は社内での対策強化からは完全に脱却していた。だから、やれるだけのことはやって、GroklawのPamela Jones氏に何かアドバイスをもらえないかとメールを送った。我々が専門家の助けを必要としていることを彼女はすぐに察し、SFLCの人たちに引き合わせてくれた。その後のことはご存知のとおりだ」

GPLを遵守させようとする過程で、SFLCは誰の代理なのか、という代理権の問題が持ち上がった。BusyBoxには法人の体制がなかったため、法律的に厄介な問題だった。「だが、SFLCのおかげでBusyBoxは有利な立場にいる。SFLCは自分たちが誰の代理かをはっきりと認識しているからだ。SFLCの人たちと初めて電話で話したときには混乱した。代理を務める人物が誰なのかを彼らは知りたがったのだ」

Landley氏はまた「我々の代わりに訴訟を起こしてくれる弁護士がいれば、どんな反訴が起きてもその弁護士が代理人を務めてくれるので、とても助かる」とも述べている。これもまた、必須ではないが、SFCに参加することで得られる恩恵だ。

Landley氏は次のように語っている。「SourceForgeやSFLCの保護団体のような組織に加われば、プロジェクトは自分たちでやるよりも充実したサービスを受けることができる。だが、非営利プロジェクトの所有権を主張するとプロジェクトを潰してしまうおそれがあるため、BusyBoxやuClibcを「所有する」法人は我々には必要なかった」

束縛されることはない

Ravicher氏によると、SFCが参加プロジェクトに対して料金や寄付の分け前を要求することは一切なく、プロジェクトはいつでも自由にSFCから脱退できるという。また、彼は、SFLCのクライアントにはSFCに参加する義務がないことを強調して、SFCへの参加はプロジェクトが最終的に独自の非営利組織へとスピンオフするための出発点になり得るものだ、と話している。

唯一、重要な条件といえば、SFCを通じて集めた資金を、たとえば、政治目的に使うなど、非営利組織に反する目的で利用しないことだ。

この点を除けば、プロジェクトは以前と同じように自由に活動できる、とRavicher氏は説明する。また、SFLCがプロジェクトのソフトウェア著作権の強化に積極的に協力しても、権利はプロジェクトに帰属したままになる、とRavicher氏は語っている。「だから、プロジェクトは自由にこの保護団体に出入りできる。支払いもなければ、制約もない。脱退したくなったらそうすればいい」

では、SFLCはこの保護団体の運営にかかる費用をどうやって捻出するのだろうか? Ravicher氏によると、運営コストはそれほどかからないらしい。「この保護団体の活動は法律センター(SFLC)の弁護士によって行われるため、新たに人を雇い入れることはない。法律センターには、申請手数料の200ドルを支払う程度だ」 また、SFLCの収入については、SFLCが独自に資金を調達するのでプロジェクトが気に懸けるようなことはない、とRavicher氏は説明する。

Landley氏は、仲間の開発者が嫌がれば、すぐにSFCを脱退できる点が気に入っている、と述べている。「彼ら(開発者)が脱退できる限り、参加の契約書にサインしてもそれほど不利益を被ることはない。脱出口が用意されている限りは、いいことづくめだ」

参加できるのは誰?

この保護団体への参加は、特に難しくはない。Ravicher氏によると「FOSSプロジェクトとしての継続を書面で約束するなら、どんなFOSSプロジェクトでも」参加資格があるという。「参加までの手続きは、我々に連絡のうえ、議題に自由に選んでもらってディスカッションを行い、プロジェクトとSFCとの間の契約にサインしてもらうだけ」とのことだ。

契約の時点で、FOSSプロジェクト側は「活動に際して我々への指示が認められる」メンバーを決定する必要がある、とRavicher氏は述べる。「銀行口座のようなものだ。帳票にサインできるのは誰で、彼らからの指示をどうやって受け取るか決めるのに似ている」という。

また、Landley氏は、SFLCには「優秀な弁護士が揃っているので、細かいことを逐一伝える必要ない」と話している。

「この保護団体に参加しているのは、彼らを信用しているからであり、我々のライセンスを守るための代理人の依頼が容易になり、それでいてほとんど手間がかからなかったからだ」

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