IBMによるCellプロセッサのプロモーションはPowerスタイル

先見の明のある開発者は、IBM、ソニー、東芝の共同開発によって新たに登場する強力なCellプロセッサに関する知識を習得しつつある。このままいくと、この次世代チップ向けアプリケーション創出の戦略にLinuxおよびオープンソースのコミュニティが深く関わってくる可能性がある。IBMのPowerプロセッサのときとよく似た状況だ。

高度に並列化されたこのチップは次世代家電機器での利用を想定して設計されている。その主任設計者の1人であるIBMのPeter Hofstee氏は、Cellプロセッサに対するオープンソース分野やほかの開発者からの関心の高さにCellの支持者たちは「驚喜している」と述べている。

CellのSPE(Synergistic Processing Engine)の開発責任者をしていたHofstee氏によれば、Cellベースの開発を後押しするためのプロトタイプやシミュレーションシステムは一切なかったにもかかわらず、このチップに興味を持つ開発者向けのサイトには40,000人ものアクセスがあったという。「オープンソースのコミュニティは間違いなくCellを評価してくれている。私たちのもとには手ごたえのある質問が数多く届いており、その内容は総じて肯定的だ」と彼は説明する。

IBMは、この先Cellのプラットフォームを同社のPowerプロセッサ並みにオープンかつ普及率の高いチップにしようと目論んでいるとHofstee氏は語る。「アーキテクチャをかなりオープンにしているPowerと同じレベルまでCellを公開する計画があるようだ。Cellのアーキテクチャには秘密にしておくべきことなどない」とのことだ。

IBMは、開発者がCell普及の礎を築いてくれることを期待しており、チップの管理を行ったところでIBMが得るものはほとんどないとHofstee氏は述べている。Powerにまつわる開発の経験はCellにとって良いモデルケースになっており、ソニーの次世代ゲーム機であるプレイステーション3(PS3) ― 来春登場予定 ― のコアプロセッサとして幸先の良いスタートを切ったCellはPower以上に普及するだろうとも述べている。

「当然、ゲーム分野での成功によって、Cellチップの応用分野はPowerのときよりも拡大するはずだ」と彼は言う。

PS3以外にも、IBMは、Cellの持つマルチスレッド、仮想化、ストリーミング、レンダリング、暗号化の各機能を活用したいという技術者に対して「できるかぎり迅速に対応する」よう努めているとHofstee氏は述べている。

9基のプロセッサコア、2億3400万個もの搭載トランジスタ数、4GHzを上回るクロック速度を備え、Linuxや家庭用メディア機器用のリアルタイムOSを含む複数のOSに対応しているCellは、組み込みアプリケーションと家電機器のなかでも最新かつ高性能なものに対して大きな効果を発揮しうるチップだとHofstee氏は語る。

Cellの技術者である彼によると、CellはPowerプロセッサ同様、Linuxにとって理想的なプロセッサになるはずであり、IBMはこの新型チップのLinuxに対する好適性をおおいに利用しようとしているという。「Cellには、Linuxコミュニティの興味をかきたてる要素がいくつかあるのではないかと思う」と彼は言う。「まず、Cellプロセッサ自体が当初からLinuxに関与していること。そのうえ、私たちがCellを使って何をしようとしているかだけではなく、新世代のアプリケーションとして何を想定しているかに目を向けてもらえれば、その点においてCellが劇的な進歩を遂げていることがわかるはずだ」とHofstee氏は説明している。その具体例として彼が引き合いに出しているのが、ゲーム、仮想化、メディアといったアプリケーションであり、Cellの並列処理に対して「際限のない要求」を抱えている分野だ。「こうした分野はそれ自体が活気に満ちた領域であり、やがてはオープンソースコミュニティも関心を向けるようになると期待している。Cellの発展の行方は、それまでに私たちがどれだけ前向きな反応を示すかにかかっていると考えている」とのことだ。

Hofstee氏は「Cellの支持者たちがシミュレータを手にすれば、 ― 今年末までにはそうなるだろうが ― この新しいプラットフォームに対する反応と開発はもっと活発になるだろう」と述べている。「今のところ、Cellの話題は興味深い読み物になる。だが、君たち記者はCellをネタにした記事をあまり多くは書けないよ。次の段階に移って人々がCellを手に取ることができる頃には、Cellの価値はすっかり公認のものになってしまうだろうからね」

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