OSSサクセスストーリーについての話題で幕を閉じたOSCON

OSCONの最終日は、Cartography Associates社長David Rumseyの感動的な基調講演と聴衆のスタンディングオベーションで始まった。この基調講演では、きたるべき「デジタルライブラリの世界」でオープンソース主義を貫くための方法論が展開された。

これに続いて、プロプライエタリからオープンソースへの切り替えに関する成功事例の発表(Novell関係者)、一部のナンセンスな経済論についてのディスカッションが行われ、映画『キングコング』の制作に対する協力要請がなされた。なお、前日までのOSCONの模様については、初日、2日目、3日目、4日目をそれぞれ参照してほしい。

Chris Stoneに代わって急遽登壇したNovellのDavid Patrick(旧Ximianの経営責任者、プロプライエタリソフトウェアからの転向を決断した立役者)は、2千人あまりの聴衆を前に熱弁を振るったが、その内容はまさに彼らが聞きたいと願っていたものだった。

「Linux戦略なしで戦うことができるなどとと考えている人は、まさか、ここにはいないでしょうね」 Patrickは彼の「バーチャルリアリティ」スライドを参照しながら話を続けた。それによると、Novellは模範を示すべく、全従業員に対して、年末までにLinuxデスクトップに切り替えるよう指示したとのこと。そして、いまや、従業員の98パーセントがOpenOffice.orgに切り替え済みで、社内の電子メールシステムでは、OpenOffice.orgなしではドキュメントを開くことさえできないそうだ。Novellは、プロプライエタリからオープンソースへ転向すると同時に、新たな試みとしてマーケティングプッシュの手法も採用している。

「我が社はまさにケーススタディです」Patrickは言った。「我々は移行作業のためのツールを構築しているところです」

プロプライエタリベンダのロックインの害悪を非難する代わりに、Patrickはそれを受け入れつつ、彼らの誤った試みは、オープンソース運動を前進させる大きな原動力の中で消滅したのだ、と述べた。

今後、さらなるオープンソースのビジネスモデルが登場すれば、アイデア、用途、コードの成熟度が増し、より大きなチャンスがやってくるとPatrickは予測し、次のように語っている。

「大切なのは顧客相手のメンテナンスとサポートです。オープンソースの世界ではこれらのモデルが実にうまく機能しています」

Patrickは、さまざまなうわさ話──OSSはソフトウェア産業を破壊するだろう、オープンソースプログラマはみな髪と髭が長い、オープンソースは一時的流行だ、オープンソース以外に進む道はない、オープンソースでお金を儲けることはできない──を取り上げ、それらは神話の類に過ぎないと指摘した。

「我々は何もないものに2億6千万ドルも投資するようなことはしません」、Patricはこう言い、IBM、HP、Red Hatなどの企業が巨額の資金を投じてオープンソースを育てようとしていることに触れた。

話はオープンソースの将来にも及ぶ。Patrickは、オープンソースには力があるが、すべてのプロプライエタリコードに取って代わることはないとし、オープンソースのレガシーは、顧客が必要とする機能を提供するための選択肢の1つであるべきであって、万能サイズのソフトウェアに顧客の業務プロセスを合わせてもらうべきではないと主張する。

Patrickは、OSCONの聴衆の喝采に応え、年末までには新しいNovell Linuxデスクトップパッケージがリリースされ、来年には多才な機能を備えたLinuxデスクトップクライアントが50ドルでリリースされるとの見通しを示し、次の言葉で締めくくった。

「これは非常にエキサイティングです。我々はそう信じています。信じないという人たちもいるでしょう。しかし、これは現実に起きようとしていることなのです」

Novellの賢明な経済的、戦略的決断についての講演に続いて、Three Rivers Instituteの創設者でありディレクターであるKent Beckが、既存のオープンソースエコノミーが成長しない理由について持論を発表した。Beckは、ローンを返済し、学資を貯蓄する人々がオープンソースのエコノミックモデルに不安を感じる構図に焦点を当てた上で、ソフトウェアを人に与えるという行為は「慢性的かつ意図的な程度の低い自尊心の象徴」であるなどと指摘したが、それは根拠のない作り話としか言いようがない。

Beckは、1つ優れたプログラムを書き上げて、多くの人々に使ってもらえれば、スポンサーやパトロンとして恩を着せることで、あるいは、ペイパーユーズやライセンス供与、および「補完」(Beckによれば、ラスベガスまでは格安の航空チケットを購入して航空運賃を節約して、豪華な食事を取ることと同じらしい)によって実利を得ることができる、しかし、それにかかるコストは、子供を大学にやることやテレビを買うことに比べて安いとは言えない、と結論している。

OSCONの掉尾を飾ったのは、Weta DigitalのMilton Nganの基調講演である。Nganは、映画『ロードオブザリングス』の制作に協力し、オープンソースの長所と短所を知る人物であり、再度の登壇となった。

Nganは、Red Hatが画像効果のグルに関するルールを変更したことを非難し、会社のソフトウェアを使って作業するのと同じくらいのコストで、Weta Digitalは独自の「ホットショットチーム」を編成することができただろうと語っている。

それでも、Nganは『王の帰還』などでのシーケンス作成プロセスにおける進歩を指摘し、一部の特殊効果はオープンソースによるものだと認めている。一方で、Nganは、FileMakerに代わって、映画産業の誰もがデータベースに使用できるオープンソース製品の必要性を説いている。

NganはWeta Digitalの次のプロジェクトが『キングコング』のリメークであることを紹介し、それがかつてないほどオープンソースに依存した作品になる公算が高いとし、『ロードオブザリングス』と肩を並べる作品になるだろうとの見解しを示した。

「『キングコング』にご期待ください。『ロードオブザリングス』と同じ程度の情熱とディテールを見取ることができるでしょう。『王の帰還』と同じかそれより大きい作品になるものと期待しています」