Halloween XI: FUDに目を向けよう

たった今、FUD戦争の最前線から発せられた至急報に目を通したところだ。Microsoftがイギリスで展開中のGet The Facts(事実に目を向けよう)キャンペーンで使われているHuw Lynesの報告書である。夢中になって読んだ。特に、『Halloween VII』など、最近Microsoftから漏れた文書とからめて読むと興味深い。

Microsoftが反オープンソース宣伝キャンペーンとして次に何をするのか、骨子がはっきりしてきた。よい機会なので、我々がどのような立場にあるのか、我々のお気に入りの悪の帝国が何をしているのか、それにどう対処するのが最良なのかを、ここで検討してみたい。

最初に、利害関係について簡単におさらいしてみよう。Microsoftが(少なくとも現在の同社のビジネスモデルが)生き残るには、オープンソースは死ななければならない。かつての冷戦の状況とよく似ている。平和的な共存は我々にとって持続的な解決策となりうるが、Microsoftにとっては決して解決策とならない。よりオープンなシステムと比較されることで顧客との結び付きが侵食されるのを、見過ごすことはできないからである(私が熱くなっているとか感情的になりすぎているとか思う人は、長期的な収益とプラットフォームへの脅威を正面から語った『Halloween I』を再読してみるべきだ。余人はそれが意味するものに気付かないかもしれないが、Microsoftは決してそうではない)。

共存がMicrosoftにとって持続的な解決策にならない以上、我々にとってもそれは解決策とならない。Microsoftの長期的な狙いは我々の文化を破壊して我々を破滅に追い込むことであり、そのためには動員できる技術的、経済的、法的、政治的な手段をあらゆる組み合わせで利用するだろう、そう我々は覚悟しなければならない。よって、"Get the Facts"キャンペーンを評価するには、Microsoftの長期的な戦略プランの中でこれがどのような役割を占めるのかを検討することから始める必要がある。

1つの役割はすぐにわかる。Microsoftのイギリスツアーが、米国で今後実施されるキャンペーンを成功させるための予行練習として計画された可能性はかなり高そうだ。もちろん、イギリスがどうでもよい市場というわけではないが、依然として全IT支出の50%を米国が占めている現状から、Microsoftの戦略立案者にとってあくまで主戦場は米国ということである。我々にはヨーロッパや開発途上国などでの成長に希望を託す余裕があるが、Microsoftにはない ―― シェアの92%を占める市場で四半期の収益予想を常に上回るという難題を抱える企業にとって、そのような姿勢は悠長すぎる。四半期の収益予想を下回ったとたんに、Microsoftの株価は下落し、オプションのピラミッドは崩壊し、ゲームオーバーとなる。

吠えなかった犬

では、今回のFUDキャンペーンは、他のFUDキャンペーンとどこが違うのだろうか。まず、Microsoftがこのキャンペーンでやらなかったことを見ていこう。

1. どうやら「オープンソースは知的財産権のガンだ」と直接に表現することを避けているようだ。これは、Microsoft自身の調査グループがこの戦略が逆効果であると2年前に報告したことに従っている。そうする代わりに、今ではこの主張をSCOを代理人に雇うなどの手段で訴えている。

2. Microsoftの製品が技術的に勝っていると主張するのをやめた。そうする代わりに、移行コストに関心を向けさせようとしている。

3. 同様に、1年前までは他の単語を知らないのかと思うほどMicrosoftの首脳陣が繰り返した「イノベーション(革新性)」という言葉が、彼らの辞書からこっそり削除されたらしい。Huwの報告書に出てこないし、Get The Factsページにも見当たらない。

4. すべてのソフトウェアは誰かが所有しているのだから、実際にはどれもプロプライエタリなのだ、オープンソースとプロプライエタリに違いなどない、とかなり最近までMicrosoftは主張していたが、これが消えた。

夜に吠えない犬のように、以上の変化が意味するものは重要である。Microsoftのマーケティングは、周到かつ無慈悲なまでに日和見主義だからだ。こういった主張をやめた理由は、それらが特定の集団、つまり重要性の高い顧客を個別に狙い撃ちするものだったが、それが功を奏しなかったからだということは、賭けてもよいだろう。

新しい政治路線

次に、Microsoftがやっていることを見ていこう。Huwには、次の5箇条が示されている。

1. Linuxはフリーではないと主張する
2. シェアードソースはオープンソースと同じものであると言い張る
3. Linuxに移行するコストを大げさに言う
4. Forrester報告書を使って、Linuxは安全ではないと主張する
5. Linuxで使用できるツールセットの品質を低く見せる

以上のすべてに以下で反論するが、順序を逆にして、興味深いものを後回しにする。指摘するまでもないだろうが、事実に基づく主張のほとんどは、合衆国政府との反トラスト法審理にまやかしのビデオを証拠として提出したのと同じ人々からもたらされた、厚かましい虚言である。

Linuxで使用できるツールセットの品質を低く見せる 実際には、これはTCO(総所有コスト)の議論に行き着く。低品質のツールセットを使うと、同じ数のマシンを扱うのに雇う必要がある管理者の人数は増えるからだ。TCOの議論にいかにして勝利するかついては、後で説明する。

Forrester報告書を使って、Linuxは安全ではないと主張する Huwでは、Red Hatの反論に言及されていない。これは、よく書かれた反論である。この主張に対する対処については、後で提案する。

Linuxに移行するコストを大げさに言う これに反論するのは簡単だ。移行コストは一度払えば終わりだが、座席ごとにMicrosoftに支払うライセンス料金は永久に終わらない、と指摘すればよい。Linux TCOがWindows TCOを実質的に上回らない限り、早く移行すればするほど、節約できる金額は大きくなる。

本当に興味深くて目新しいのは、「1. Linuxはフリーではないと主張する」と「2. シェアードソースはオープンソースと同じものであると言い張る」の2つだ。別の場所でもこのような主張の兆しはあったが、個条書きされるほどの論旨として使われたのは、これが初めてである。しかも、これはMicrosoftが過去にとっていた立場がほとんど逆になったことも意味する。これまでは、自社の製品とライセンス契約はLinuxとは違うものであり、Linuxより優れており、革新的であると主張していたが、今や方向が変わり、シェアードソースはオープンソースと同じものであるからMicrosoftの製品を使い続けるべきである、との論旨に流れ着いた。いやはや。この攻撃は無視しよう。弁護士が裏にいる。

Linuxはフリーではない なんですって? フリーソフトウェアという用語がかっこうの攻撃材料だと思う人間がまだこの地球に残っているなら、彼らは注意したほうがいい。というのも、Microsoftがここでしているのは、「フリー」という言葉の手垢にまみれた両義性(無料/自由)を別の方法で悪用することなのだ。LinuxのTCOはゼロではないのに、フリーソフトウェアの支持者は嘘を付き、だまそうとしていると、彼らは主張しようというのである。そういうことであれば、フリーのもう1つの意味についても、Microsoftの言うことを果たして信用できるかどうかは怪しくなってくる。

語義の戦い ―― 政治的な立場または市場での立場の代理として言葉の意味を巡って争そうこと ―― は、他の戦いとよく似ている。我々がやるべきことは、自分の領土ではなく、相手の領土で戦うことだ。フリーの語義を巡ってMicrosoftと論争することに費やされる1分1分が、彼らにとって勝利であり、我々にとって敗北である。

また、これは、オープンを我々のオープンソースにおいて防御するのではなく、共有を彼らのシェアードソースにおいて攻撃する必要がある理由でもある。幸いなことに、これは簡単だ。ソースを共有する人々を知的財産権の侵害だとして訴える権利を放棄しないくせに、なぜそれをシェアードソースと呼ぶのか、と問い詰めればよい。あなたの行動がMicrosoftにとって競争相手の出現を意味する場合、あなたを法廷に引き出す好機をMicrosoftが放棄するだろうか。

路上に引きずり出す

現在のMicrosoftがいかに守勢に立たされているか、そこに注意していただきたい。シェアードソースを中立的な立場に置くために、シェアードソースはオープンソースと同じものであると主張することは、オープンソースは顧客に望まれているものだと認めたことも同然だ。Microsoftは、この地域で多くの領土を放棄した。もっと放棄させよう。情け容赦なくパンチを叩き込もう。ただし、隠やかで説得力のある口調を使い、言葉づかいには十分に気を付けることだ。"Get The Facts"キャンペーンに対して、オープンソース支持者が口にしそうな言葉を挙げてみよう。

* 移行コストの負担は一度だけ。WindowsのTCOは永久に続く
* シェアードソースは毒薬だ
* ワームの被害を受けるのはWindowsボックスだけ

避けなければならないのは、あいまいな物言いだ。自由やユーザの権利に関するFSF流の宣伝文句は役立つこともあるが、このキャンペーンが標的とする損得勘定に敏感なITマネージャの耳には見当違いで馬鹿馬鹿しく聞こえるだろう。見当違いで馬鹿馬鹿しい主張だと思われたら、Microsoftに勝利を譲ることになる。

Microsoftを窮地に追い込むには、反論を質問形式にするのが最適だ。特に、TCOとセキュリティのような問題を組み合わせてMicrosoftを叩けば、いっそう効果的である。たとえば、こうだ。

* Netsky、Sasser、MyDoomなどのワームに感染したLinuxマシンが何台あるか? Windows TCOを見積もるときに、ワームの駆除に管理者が費やした時間は考慮したのか?
* 稼動しているサイトの数がApacheの3分の1に満たないのに、なぜWindows IISのWebサイトがクラックされたり動作がおかしくなる頻度がApacheのWebサイトより高いのか?
* シェアードソースを利用した際に知的財産権の侵害であるとしてMicrosoftから告訴されないことを保証する免責条項をシェアードソースライセンスに追加するつもりはないのか? もしないのであれば、シェアードソースがオープンソースと同じだという根拠をもう一度説明していただけないか?

このキャンペーンが伝えるもの

我々は勝利しつつある。Microsoftは、ソフトウェア技術の優位と低価格を武器に我々を阻止することに失敗した。ソフトウェア技術で優位に立つのは彼らには無理であり、低価格戦略では彼らのビジネスモデルは生き残れないだろう。SCO訴訟は、我々の浸透のスピードを誰にでもわかるほどには鈍らせていない。これまで忠実だった顧客の中にも、離脱が見られるようになった。最近では、フランス政府ブラジル政府がよい例だ。Microsoftが特に憂慮しているに違いないのは、Gartnerが1Q2004で報告したLinuxサーバ出荷数の途方もない伸びだ。この流れが続けば、出荷数だけでなく金額でもMicrosoftを来年の早い時期に追い越すと予想される。彼らは単にプレッシャーを感じているのではない。耐えられる苦痛の限界が訪れつつあるのだ。

"Get The Facts"キャンペーンで選ばれた論旨が示すのは、明らかに攻守が入れ替わり、Microsoftの基盤である大企業顧客や政府機関を防衛する局面に転じたことだ。本質的に、この政策が大きな成果を収めるとは思えない。幸運と説得力があったとしても、離脱のペースを一時的に食い止めるのが関の山だろう。しかし、それ以上の策はとれそうもない。なぜか。

Microsoftの根本的な問題は、約22,000人のプログラマを雇用していることだ。オープンソース・コミュニティは、その10倍の数をやすやすと呼び集めることができる。つまり、オープンソースのコードベースとWindowsとの間に横たわる能力の隔たりは、Microsoftから見ると改善されるのではなくますます悪化するしかない。時間、技術、市場の力は彼らの側にない。よって、生き残りを賭け、市場の力とオープンソースの技術面での優位性の意味を失わせる方向へと戦略を変えざるを得ないのである。

今後の戦争

では、"Get The Facts"キャンペーンがだましやすい標的を残らず手中に収めた後、Microsoftは支配をじわじわと取り戻そうと何をするだろうか。私の予想では、これまでよりもはるかに大規模で醜悪な法的、政治的なペテンが展開されるだろう。これまでの2年間、我々はクズのような特許を武器に攻撃が加えられるものと覚悟してきた。思うに、それを免れている唯一の理由は、92%の市場シェアを握る略奪的な独占企業として罪状認定された企業が、誰にでも作品を分け与えて利用できるようにしている多くの開発者を訴えたりすれば、世論という法廷で散々に叩かれることは避けられないと考えているからである。

とはいえ、Microsoftが捨て身でかかってくることは疑いない。Public Patent FoundationGroklawのような団体の設立は我々に武器を与えてくれるが、熾烈な戦いは近付いている。

Microsoftはさらに緊密にRIAAやMPAAと連携をとり、ハードウェアベースのDRMの使用制限 ―― そしてそれを義務付ける法律の制定を再び試みるだろう。その根拠は違法コピーとスパムを阻止することだが、本当の目標は顧客の統制と未承認ソフトウェアの全面排除だ。二度にわたる試みは失敗に終ったが、Microsoftの立場としてはさらに努力を続けるほかない。

また、テロリストを支援しているとの理屈でオープンソース・ソフトウェアを非合法化するために、数十億ドルの賄賂(おっと失礼、政治献金)に支えられた真剣な活動がなされるだろう。それを打ち負かす手段はただ1つ。オープンソースコードに今以上に関与するよう米国政府に働きかけるのである。そうすれば、賄賂で抱き込まれた議員によって重要なインフラストラクチャが非合法化されるのを軍関係者や官僚は看過できず、その動きにまったをかけるだろう。

5年前、大企業は真っ先に標的となった。なぜなら、大企業を転向させれば、コンピュータおよびソフトウェア業界の他の部分で感じ取られる需要のパターンをもっとも効率よく変えられるからだ。この流れは、今ではMicrosoftの活動とは無縁に、自主的に存在している。思うに、約6か月前に臨界点を超えたのだろう。"Get The Facts"キャンペーンはその証拠だ。

しかし、来年は、我々の政治的、法律的な側面を守るために、政府にもっと積極的に導入を働きかける必要があると思う。Microsoftが拠出できる600億ドルを超えるコスト削減を提供する必要がある。

Copyright 2004 by the Open Source Initiative
Webサイトに関する質問、提案はopensource.orgのWebマスターまでお寄せください。