TinyMe――驚嘆すべき安定性と軽量性を兼ね備えた小型ディストリビューション

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 私は、1つのコンピュータを可能な限り使い続けることを信条にしていることもあり、最近は旧式化したコンピュータの延命に役立つであろう、軽量型Linuxディストリビューションに興味を抱いている。その1つが本稿で取り上げる TinyMe 2008.0 だ。TinyMeはPCLinuxOSをベースとしているが、オリジナルのディストリビューションが700MBクラスであるのに対して、TinyMeのサイズはわずか200MB程度に収まっている。TinyMeが貧弱なハードウェアに優しいディストリビューションに仕上がっているのは、Openboxウィンドウマネージャなどの軽量ソフトウェアのみを取り揃えた、スリム化の成果だとしていいだろう。

 TinyMeに対する私の評価を一気に高めたのは、733MHz Pentium IIIを搭載したCompaq Deskpro ENにてトラブルフリーなインストールが行えたという経験であった。通常、ディストリビューションのインストールという作業には、何らかのトラブルがつきものだが、TinyMeのインストールは文字通りのトラブルフリーで進行したのだ。その際には、同マシンの最適解像度である1024×768すらも正常に設定されていたのだが、この設定はその他のディストリビューションにおける鬼門であり、本家を含むUbuntu系のディストリビューションでは特にこの問題が顕著に現れていた。なお、TinyMeを使用する上でのシステム最小要件は、Pentiumプロセッサおよび64MBメモリとされている。ディスク容量に関する要件は明示されていないが、基本インストールであれば2GBのハードドライブで充分すぎるくらいである。

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TinyMe 2008.0

 TinyMeは外観的にも洗練されており、私としては珍しいことに、デフォルトの状態から何1つ変更しようという気にならなかった。

 TinyMeに同梱されているソフトウェア群の構成は、今日のコンピュータで行う基本的な作業を一通りこなせるだけの品揃えになっている。具体的には、文章作成はAbiword、WebブラウジングはOpera、電子メールはSylpheed、デジタルカメラはGThumbにてサポートするというセレクションだ。ただし、スプレッドシートとデータベースマネージャに類するものは含まれていないようであり、プリンタについても、私の場合は別途CUPSをダウンロードしなくてはならなかった。

 幸いこうした同梱ソフトウェアに関連した不備は簡単に対処できたが、それはTinyMeの場合、PCLinuxOS用のソフトウェアライブラリを丸ごと利用できるからである。つまりTinyMeのユーザは、Puppyなどの軽量版ディストリビューションに比べ、はるかに多数のソフトウェアに簡単にアクセスできるのだ。なおパッケージ管理については、操作性と信頼性を兼ね備えたSynapticで処理できるようになっている。

 また私の作業環境に限ると、OpenOffice.orgは不可欠である。Microsoft Office系フォーマットと互換性のあるオープンソースプログラムとしては、OpenOffice.orgが最良の選択肢だからだ。ただし文章入力に使うには煩雑で機能過多な作りになっていると感じているので、私の場合、テキストエディタとしてはGEditを常用している。

 こうしたOpenOfficeとGEditを始めとする、必要ないくつかの追加プログラムのTinyMeへのインストールは簡単に実行できている(過剰なインストールによるTinyMeの肥大化にはご注意を)。ここでのインストール作業の大部分はトラブルフリーで進行してくれたが、Synapticから出されるエラーメッセージについては、どうしても解消できなかった。PCLinuxOSではKDEが標準装備とされているので、おそらくこの問題は、KDEインストレーションの不在に関係しているのではないかと思われるが、いずれにせよインストール後のソフトウェアは、どれも正常に使用できている。

 ただしソフトウェアの追加に関しては、LyXのインストールを試みた際に、1つの大きな問題に遭遇することになった。Synapticからの報告によると、LyXを追加した場合、不可欠な基本ソフトウェアを含めた既存ソフトウェアのいくつかが削除されるというのだ。私の場合、LyXの必要度はそれほど大きくないので、結局このインストールは当座見送ることにしておいた。

 その他、自力で解決不可能なトラブルに遭遇した場合は、TinyMeのフォーラムが役に立つだろう。

 TinyMeのレスポンスは、期待通りの軽快なものであった。確かに動作速度だけを問題にするならば、より高速なディストリビューションは他にも存在するかもしれないが、TinyMeの場合は、はるか昔に旧式化した古参マシンを、重量級ディストリビューションを搭載した新型コンピュータに比肩する速度で動かしてくれるのだ。

 このようにTinyMeの操作性は概ね良好なものではあるが、大型ディストリビューションに比べると見劣りする部分も存在している。私がそれを実感したのは、各種の設定に要する作業についてである。その1つはDSLインターネットへの接続設定であり、他の大型Linuxディストリビューションの場合は、接続の認識と必要な設定が自動で処理されるものなのだが、TinyMeの場合は、PCLinuxOSのControl Centerを介した設定作業を、ユーザが手作業にて行う必要があるのだ。同様にOpenboxウィンドウマネージャの設定も、GNOMEやKDEに比べると若干煩雑なものとなっている。

 とは言うものの、必要な設定終了後のTinyMeを使用する上で、困難を感じることはまずないはずだ。ある程度のLinux使用経験を有すユーザはもとより、これから初めてLinuxの使用法を学習するというユーザであっても、使ってみて立ち往生するというケースはほとんどないだろう。仮にMicrosoft Windowsしか使ったことのないユーザでも、いったん稼働状態に達したTinyMeさえ与えられれば、大部分の人間が使いこなせるのではなかろうか。

 実際にTinyMeを使用してみないと実感できないのが、その安定性だ。なにしろ、私が使用した範囲内で遭遇した最悪のトラブルというのは、デスクトップ上のアイコン表示が一時的に消える現象が稀に発生する、という程度のものでしかないのである。

TinyMeはどこまで貧弱なハードウェア環境に耐えられるか

 最初に触れたように、TinyMeはPentium IIIデスクトップマシンにて軽快な動作を示してくれたが、この種のレビューをする以上はよりシビアなハードウェア環境を試してみるべきだろう、と思い立って引っ張り出してきたのが、ホコリを被って放置されていたPentium IIマシンである。そしてこの骨董品コンピュータでも、TinyMeは正常にインストールすることができた。ただし動作面に関しては、電源管理を始めとして若干不安定な挙動を示している。

 次に、TinyMeにおける最低限のハードウェア環境を見極めるべく、搭載メモリを64MBにまで切りつめた状態のマシンを試してみた。結果的にこの状態でもTinyMeは動作はするのだが、マイナーなトラブルの発生頻度が高まってしまい、例えばOperaではクラッシュが起こりやすくなったよう感じられる。結局メモリ搭載量を192MBに戻したところ、このPentium IIマシンはPentium IIIマシンと遜色ない安定性を示すようになってくれた。動作の軽快さについても驚くほどスムースで、確かに若干のレスポンスの悪さは感じさせられるのだが、それはあくまで“多少気になる”レベルであって、“我慢できない”レベルの遅延は一度も見せなかったのだ。

 新規のコンピュータを購入する余裕のない人々を対象に、軽量版Linuxをインストールすることで使用可能な状態に再生した旧式コンピュータを提供するといった場合、TinyMeは非常に有効なオプションの1つとなるはずだ。このディストリビューションは、メモリおよびハードディスクに対する要件が低く、軽快かつ安定して動作する上に、何よりも簡単に操作できるからである。

 私は、TinyMeの完成度に大いに感服させられてしまった。それは、システム要件を非常に低く抑えたまま“大型ディストリビューションに匹敵する機能を提供する”という構想を、みごとに実現しているからである。確かに、若干の問題は発生しているが、それらはいずれもマイナートラブル程度のものであり、私が使った限り“深刻な障害”と言えるような不具合には遭遇しなかったのだ。付随する制限を承知した人間であれば、その導入は真剣に検討するだけの価値があるだろう。

John Carlsonはシアトル出身で、現在はフリーランスライターとして活動している。

Linux.com 原文(2008年10月14日)