プロジェクトリーダの罷免が提案されたDebian

Debianのプロジェクトリーダ(DPL)であるAnthony Towns氏について、罷免の投票が行われる可能性がある。問題となっているのは、Dunc-Tankへの関与についてだ。Dunc-Tankとは、Debian etchを12月初頭に予定どおりリリースできるよう、寄付を集めてDebianのリリース・マネージャに財政的支援を行うことを目的とした(OTP翻訳記事)非公式グループである。

この決議の内容や、Debian憲章の下でのこの決議の正当性については、当記事の執筆時点でも議論が続いているが、仮にこれが可決された場合、次のリリースに向けて障害となる可能性が大いにある。未解決の重大なバグの数々に比べても、克服がはるかに困難な障害である。

Debian憲章では、個々の開発者が「一般決議の草案を提案する、またはその賛同者となる」ことができるということと、開発者が集合体として「プロジェクトリーダを任命、罷免できる」ということが定められている。他の一般決議と同様、決議の草案には10人以上の開発者の賛同または支持が必要である。また開発者は、その決議に反対する決議を提案することもできる。決議案が出尽くすと、Debianの書記が投票の文言を起草する。そして、さらに2~3週間の討論を経たうえで、投票が行われる。

今回の罷免は、Denis Barbier氏が提案したものである。Dunc-Tankは「Debianの開発者、ユーザ、支持者が集まった独立したグループ」だということがDunc-Tankのニュース・リリースで明言されているにもかかわらず、Town氏の地位のせいで、Dunc-TankとDebianとの区別があいまいになったということが、Barbier氏の提案の直接的な動機である。そして、オーストラリアのあるメディア報道で、その区別が不明確なものがあったということを、Barbier氏はその証拠として指摘している。「我々Debian開発者は、この混同を収束することができます。その方法が、プロジェクトリーダの罷免です」とBarbier氏は記している。

Barbier氏は詳しく述べていないものの、Dunc-Tankへの関与によってTowns氏がDebian憲章に違反したという含みがあるようだ。憲章では、「プロジェクトリーダは、開発者の意見の総意に添う決定をするよう努めるべきである」と定められている。開発者に財政的支援を行うという案は、debian-private(Debian開発者専用のメーリングリスト)で議論されていた時期があるようだが、Pierre Habouzit氏によると、「皆の意見が一致するという状況にはほど遠かった」そうである。

つまり、Towns氏が行ったのは個人的な決定だが、氏が置かれている地位のせいで、公式な決定と誤解される、ということである。Habouzit氏はこう述べている。「すべては欺瞞であり、もっと許し難いのは、知名度を悪用してこのような取り組みの支持や支援を行うような連中がその根源にいるということです。憲章の条文と精神の両方が反故にされています」。ただし、Habouzit氏は後に、Towns氏がDunc-Tankから手を引くなら、Barbier氏の一般決議への支持を取り下げることを表明している。

今回の決議の支持者の中には、方針や人柄をめぐる軋轢が支持の動機になっている人もいる。Sven Luther氏は、Town氏が就任した昨春からこれまでの動向をふまえて、Dunc-Tankに関する発表について、「最近のDebianの動きと方向性はしょせん同じです」と述べている。「我らがDPLは、メーリングリストを検閲するということや、選挙運動の中で人々を排除するということをほのめかしていたでしょう」。

驚いたことに、Towns氏自身もBarbier氏の決議を支持している。Towns氏はこう記している。「たしかに、もっともな疑問だと思います。罷免されることについては、それが正当かつ適切だとこのプロジェクトが考えるのであれば、個人的には何ら問題ありません」。

さらにTowns氏は、仮に罷免された場合でもDebianへの関与は続けると述べている。「手を引くことはまったく考えていません。他の面では私と意見が異なる人たちが、私の不変さやDebianのプロセスを信じてくれているようだということ、そしてその結果、各自が信念に従って行動できることや、恐れから行動を控えざるを得ないという状況にならないことを、非常にうれしく思っています」。

反対の声

この一般決議に対する反対の声は、支持の声と同じかそれ以上のようだ。John Goerzen氏は次のように述べている。「この決議が支持を集めていることに衝撃を受けていますし、今回のプロジェクトをめぐる感情に身をまかせて、DPLの罷免についての判断が混乱している人が多いのだろうかと考えてしまいます。自分たちが何を言っているのか、改めて考えてみてください。オーストラリアの一部メディアで事実が誤認されたからDPLの罷免が必要だ、と言っているのです」。

Stephen Gran氏も同じ趣旨の疑問を投げかけている。「はっきりさせておきたいのですが、Debian外部での行動について、Debian開発者を罰したい、ということでしょうか。正気の沙汰と思えないこの状況で、次は誰を標的にして糾弾するつもりなんでしょうか」。

Loic Minier氏もTown氏擁護の意見を打ち出した1人だ。次のように述べている。「Towns氏は、一番最初の段階から、この件をクリーンかつオープンに処理すべく、彼なりに最善を尽くしました。彼がこのプロジェクトに取り組んでいるのは、Debianのためになると考えてのことなのです。その考えこそが、DPLの本分ではないでしょうか」。

さらにMinier氏は、別のメッセージの中で、第2の一般決議を提案している。次のような内容だ。「Debianプロジェクトは、現在のDPLであるAnthony Townsと、2番目の地位にあるSteve McIntyreが主導する、『Dunc-Tank』という名前の実験に異議を唱えない。ただし、この実験は、Debianプロジェクトでの決定に起因するものではない。Debianプロジェクトは、Debianを財政的に支援するプロジェクトやEtchのリリースに向けた援助を行うプロジェクトの成功を願っている」。

さらに、Sven Luther氏が第3の提案を行った。Debianの次のリリースの1週間後まで、すべての一般決議を延期するという内容で、「それまでには感情が鎮まる」ことを期待しての提案である。

ただし、Debianの書記であるManoj Srivastava氏の指摘によると、Luther氏の決議案は、Debian憲章の条文で定められている一般決議の処理方法に矛盾している。したがって、他の決議案に対して、3対1の多数で可決される必要があるため、十分な賛同者を集めるのは難しく、また賛同を集めたとしても可決に至るのは困難である。

先行きは不透明

いずれかの決議が投票にまで至るかどうかは不透明だ。これまでのところ、Barbier氏とMinier氏の決議は、ほぼ同数の賛同者を集めているようだが、投票に至るまでの数には達していない。延期するという決議については、賛同者はまだない。

さらに、Software in the Public Interest(Debianの法的な非営利組織)向けのIRCチャネルで、Goerzen氏は、Barbier氏の提案が正しく構成されていないのではないかという疑問を呈している。もしそれが事実なら、別の罷免決議を改めて提案する必要がある。そして、Debian開発者が考えを改める機会があれば、そのような再提案は行われない可能性も出てくる。

また、Michael Banck氏が指摘するように、仮にTowns氏が罷免された場合、Dunc-Tankの主要な開発者たちが引き続きDebianに力を貸してくれるという保証はない。

さらに、Towns氏が、自身の罷免案に賛同する中でDebianコミュニティに注意深く指摘したように、仮に罷免が成立した場合、プロジェクトリーダを決める選挙が改めて実施されることになる。Debianが予定どおりのリリースに向けて奮闘しているこの時期にだ。

その間、プロジェクトリーダの責務は、書記のSrivastava氏と、技術委員会の委員長であるBdale Garbee氏が兼任することになる。Debianの組織構成は分権化されているとはいえ、この兼任によって、必要な意思決定に遅れが生じる可能性もある。「この決議が可決され、予定どおりにリリースするとしたら、DPLなしで進めることになると思います…」とTowns氏は述べている。文末の「…」は、不穏な感じをほのめかしているのかもしれない。

だが、Michael Banck氏が指摘するように、仮にTowns氏が罷免された場合、Dunc-Tankの主要な開発者たちが引き続きDebianに力を貸してくれるという保証はないのだ。

ともあれ、Towns氏がやんわりと警告しているつもりなのだとしても、Debian開発者たちは、Towns氏の主張について考えてみる方がよいかもしれない。彼に対する罷免決議の背後にある動機とは関係なくだ。決議は、重要な時期に水を差すことになるのは確実であり、最悪の場合、協力が最も必要なときに、Debianの民主的なプロセスによってプロジェクトが頓挫してしまう可能性が大いにあるのだ。

Bruce Byfield コースの設計者兼講師。コンピュータ・ジャーナリストとして、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalへの執筆多数。

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