Moglenが構想する「運動全体の法律顧問室」

今月の初め、Software Freedom Law Center(SFLC)の存在が明らかにされた。このプレスリリースでは、同センターの理事会の陣容、設立資金、そして設立の動機となった法的脅威の増加が強調されていた。理事会の顔ぶれを見ると、まるでフリー/オープンソースソフトウェア(FOSS)の法律専門家の紳士録のようである。とはいえ、プレスリリースが伝えている事柄の背後には、もっと大きなストーリーがある。

SFLCの理事であるEben Moglen(GNU General Public Licenseの立案者)は、単に法的脅威からFOSSコミュニティを守る方法を模索しているだけではない。彼は2010年までにSFLCが、FOSSのプロジェクト、技術に通じた法律家、および法人を全員の共通利益に結び付ける連合体のセンターになることを願っているのだ。

オープンソースソフトウェアに関心を持っている者なら誰でもわかると思うが、SFLCを設立することになった背景には、SCOによって引き起こされた著作権と特許権の問題、特許問題をめぐる広範な論争、そしてFOSSコミュニティがこうした問題に巻き込まれる懸念の増大がある。とはいえ、Moglenによれば、SCOのケースは「何かが間違っているというより、むしろライセンスモデルがどれだけ強いか」を示しているという。彼はこうした論争を通じてコミュニティがさらに成熟し、「リーガルエンジニアリング」の必要性をますます感じるようになった――つまり、こうした問題に関するテクノロジと法律分野への理解が深まった――と見ている。

技術と法律の専門的知識を併せ持った人たちが既に出現し始めている。Moglenは、この現象が、失業した技術者たちをロースクールに走らせたドットコムクラッシュを連想させるかもしれないと見ている。しかし、動機が何であれ、Moglenはコロンビア大学でのProfessor of Law and Legal Historyという立場から、この5年間に学生たちの間でFOSSの問題についての関心と知識が高まっていることを指摘している。MoglenはSFLCの設立と日々の運営に深く関与する理事として、SFLCの主目的を、コミュニティの中でリーガルエンジニアリングを必要とする人たちと、それを提供できる人たちが出会うことのできる「合流点」を提供することだと考えている。彼はコミュニティを法人にたとえて、SFLCがコミュニティにとって「運動全体の法律顧問室」になることを望んでいる。

この目標を達成するため、MoglenはDaniel B. Ravicherと協力しようとしている。RavicherはFree Software Foundationの上級顧問で、Public Patent Foundationの創設者である。MoglenとRavicherはリーガルエンジニアリングに通じた法律家を新たなスタッフとしてSFLCに迎えるつもりでいる。将来的には実務研修の可能性もある。今後数か月でSFLCを立ち上げて顧客ベースを築き、それから2〜4人のスタッフを雇う予定だという。Moglenはスタッフの大幅な回転を考えており、5年後には20〜30人の法律家がSFLCから巣立っているだろうと予想している。そして、そうした卒業生が出るころには、メンバが専門知識を持って、コミュニティにも法人にも平等にアドバイスできるようになるだろうと期待している。Moglenによれば、SFLCが成功すれば新しい世代が現れるので、理事会のやるべきことは少なくなるだろうとのことだ。

Moglenの見通しでは、SFLCの顧客がすぐに法的支援を受けられるのはもとより、この支援を提供する法律家たちが、リーガルエンジニアリングに通じた人たちのプールを拡大するのに寄与するだろうとのことだ。顧客になるのは、企業というよりは非営利団体であり、ソフトウェア開発プロジェクトや「他の選択肢がない人々」などが含まれる。SFLCは一定の基準に従って顧客を選ぶことになる。この基準はいまだ開発中だが、おそらくは必要性を考慮するとともに、より大きなコミュニティへの顧客の法的必要条件の戦略的価値をSFLCが査定することになるだろう。たとえば、公表されている顧客の1つにFree Software Foundationがある。SFLCはFree Software FoundationがGNU General Public Licenseの次のバージョンと英語以外の言語による公式バージョンを作成するのに手を貸す。Sambaプロジェクトも顧客の1つだ。Windowsとの相互運用性への取り組みは、GNU/Linuxが企業に受け入れられるかどうかの鍵になっているが、これは著作権と特許権の法律による異議申し立てにさらされる可能性がある。どちらもMoglenの長期的な顧客であり、FOSSコミュニティにとって重要な仕事をしている。

SFLCが何らかの理由で顧客を受け入れなかったとしても、セミナーやオンライン講座を通じて支援を提供したり、他の法的リソースを紹介する可能性はある。SFLCの発表があってから4日間で、Moglenの元には手助けしたいという法律家たちからボランティアの申し出が何百も寄せられたそうだ。思うに、これらのボランティアはSFLCを中心とする連合体の一翼を担う力となるのではないか。

とはいえ、連合体のもう1つのチェーンにはOpen Source Development Lab(OSDL)の法人メンバが存在する。OSDLは400万ドルの設立資金をSFLCに寄付しており、メンバからSFLCに継続的に資金を導くうえで主要な役割を果たすだろう。Diane Peters(OSDLの顧問で、SFLCの理事の1人)は他にも資金源ができるだろうと言っている。しかし、おそらくSFLCの独立性を保つためだろうが、Moglenはそれらの資金源から少し距離を置きたがっているように見える。いずれにせよ、この制度ならSFLCのスタッフと理事が資金集めに奔走しなくて済むばかりか、FOSSコミュニティに参加する企業に資金提供の機会を与えることにもなる。Moglenはこの制度を「富者の同意の下での貧者への施し」と称している。

将来のことを想像すると、OSDLに属する企業がSFLCのことを自社の法律スタッフの養成所と見るようになっているかもしれない。そうなれば、企業がOSDLを通じてSFLCに寄付を行うのは、二重の意味で――つまり、第一に自社の製品の基盤になっているソフトウェアを保護し、第二に自社の次世代の法律顧問の育成を助けることで――自分自身を利する行為となるわけである。

Moglenがずっと力を貸してきたコミュニティにどれだけ情熱と支持を傾けているかは、彼の書いたものと同様、談話からも十分に伝わってきた。それと同時に、彼は過去の非公式な支持がもはや十分ではないこと、そして後継者を育てる必要があることを感じている様子だった。Software Freedom Legal Centerは、Moglenにとって支持を継続する道であり、将来への備えでもある。彼はこう言った。「金の卵は手に入れた。次は雛を探す番だ」

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