国連の新しいオープンソースの組織:その意義は?

国連はInternational Open Source Network(IOSN)と名付けたフリー/オープンソースソフトウェア活動を立ち上げた。ただし、平和維持軍でお馴染みの青いヘルメットをかぶった人たちがすぐにも派遣され、世界のコンピュータユーザーに向けてLinuxの起動CDを配布するかどうかは明らかではない。

IOSNは国連のアジア太平洋情報開発計画のプロジェクトの一つで、フリー/オープンソースソフトウェア(FOSS)の技術とアプリケーションに関連した活動をする。国連のそうした活動の効果を疑い、その産業支援を疑問視する向きもある。しかし、世界の多くの地域でフリー/オープンソースソフトウェアを利用しようとする気運が高まっていることの現れではある。

国連はIOSNの「職員数がわずか」であり任務と権限も限定的であることを認め、IOSNはアジア太平洋地域におけるFOSSの支持者および人材の支援とネットワーク化に取り組む組織であると説明している。これは、マイクロソフトが、国連の商用標準グループから離脱すると発表した直後のことである。

IOSNのWebサイトには、「アジア太平洋地域の途上国が、安価で効果的なFOSS ICT(Information Communication Technology)ソリューションを採用することにより情報格差を克服し、これによって急速かつ持続可能な経済的社会的発展を達成することを目指しています」と謳われている。

知る人ぞ知る

国連によるこの新しいオープンソースソフトウェア活動は、教育や政府機関向けにフリー/オープンソースソフトウェアとその利用法に関する手引きをインターネットで提供するものだが、手始めは、先週の土曜日に静かに開催されたSoftware Freedom Dayの支援だった。

IOSNのサイトには、「当日は、FOSSの利点を世界に知らしめ、その使用を広く勧めます」とあり、「公共の場で、パンフレットおよび、TheOpenCDやLinux Live CDなど、FOSSを収録したCDを配布します」とあった。

Software Freedom Dayを支援したのはIOSNだけではなく、Open Source InitiativeFree Software Foundation――ボランティアたちは小人数のチームに分かれ全世界に散らばった――も加わっていた。しかし、多くの連れ合いが結婚記念日を忘れてしまうように、Software Freedom Dayに気づかなかった人々も少なからずいただろう。オープンソースコミュニティの多くの人たちさえもカレンダーの8月28日に丸を付けてはいなかったのだから。

にもかかわらず、オープンソースソフトウェアの普及に弾みを付けようと、世界中に草の根マーケットキャンペーンチームが送り出されたのだった。北米、欧州、インド、フィリピン、オーストラリアへと。

効果は実質ゼロ

New River Marketing Researchの社長であり、Linuxとその業界のアナリストでもあるBill Claybrookは、IOSNのWebサイトやその内容には見るべきものはないと評し、FOSSに対するそうしたグループの貢献に疑いの目を向ける。

そして、このグループの高邁な目的を引き合いに出し、「こうした組織が有意義なことをするとは思えない」と述べた。

国連によるオープンソースソフトウェア活動には疑問を呈するClaybrookだが、途上国におけるLinuxやオープンソースソフトウェアの役割については高く評価する。その一方、経済的利点だけでなく抑圧の手段になっている点を付け加えることも忘れない。例として北朝鮮を挙げ、「この技術は国民よりも軍事のために利用されている」と指摘する。

Claybrookは、南米やアフリカなどではオープンソースソフトウェアの持つ大きな可能性が完全には活かされていないが、Linuxやオープンソースソフトウェアは、途上国や先進国から注目を集め続けるだろうと言う。

「インドや極東などの、教育あるいはITシステムをある程度備えている国なら、大概、Linuxに関心を持っている」

コストの壁を乗り越える

ITの調査会社であるFrost & SullivanのシニアアナリストMukul Krishnaは、多くの途上国がオープンソースソフトウェアに流れるのはソフトウェアライセンス料に原因があると説明する。

「オープンソースソフトウェアとLinuxをベースとするシステムなら、事実上、ソフトウェアのライセンス料はゼロだ」

そして、オープンソースソフトウェアに独自のライセンスが必要だとしても、その料金はかなり安価なのが一般的で、この市場参入が、プロプライエタリのライセンス料を押し下げる要因となっていると指摘する。

「オープンソースソフトウェアの広がりとコスト面から、マイクロソフトなどの企業は対策を迫られている」と述べ、マイクロソフト製品の安価な「軽量」版を引き合いに出した。

国連は従来からある情報格差を解消しようとしているが、自身、資金不足に陥っており、オープンソースソフトウェアの推進には理想的な組織だとKrishnaは言う。

「(IOSNが、途上国の)人々にとってどれ程役に立つのかはわからない。しかし、オープンソースソフトウェアがソフトウェアライセンス料の引き下げに本当に繋がるのなら、効果はあるだろう」