正気を失ったSCO、GPLは無効だと主張

すっかり形勢が逆転した今、「知的財産権の適用」を主張しながら、実際には他社の権利を大いに蹂躙していたSCOは、法的に危うい立場にある。SCOとその弁護士たちは、法的責任さえも放棄している。

先週のWall Street Journal誌に、SCOの外部顧問Mark Heiseによる、Free Software FoundationのGNU General Public License(GPL)の合法性を疑問視する声明が掲載された。GPLは、フリーソフトウェアのユーザに対してライセンス料を要求する、根拠のないSCOの主張を退けるとともに、SCOが今後Linuxカーネルを配布するのを禁止することができる。SCOがカーネルを配布することは、カーネルの開発に貢献した、世界中の何千人もの人々の著作権を侵害することになるからだ。著作権の侵害とGPLへの違反を主張してIBMが最近起こした反訴でもわかるように、GPLは、SCOの不正行為からコミュニティの法的権利を守ってくれる盾である。よって、GPLと、現状へのGPL適用にSCOが反対するからには、万全の論拠を用意してくると考えるのが普通だろう。しかし、万全の論拠はおろか、有効な論拠というものさえなく、SCOの弁護士が実際に主張している内容は、プロとは思えない、とてつもないナンセンスである。

同誌によれば、Heiseは、SCOがGPLの合法性に異論を唱える根拠は、著作権法では1つのコピーしか認められていないにもかかわらず、GPLが適用されるプログラムでは、ライセンシーがいくつでもコピーを作成できる点だと述べている。また、GPLは「連邦著作権法に取って代わられた」というHeiseの主張が引用されている。

この主張は軽率だ。なぜかといえば、Heise自身やほかの弁護士たちは、これを法廷に提出しなければならないという職業上の義務に反していることになるからだ。仮にこの主張が正しければ、ライセンシーがプログラムのコピーを複数作ることを許可するライセンスは存在しないことになる。GPLが「違法」になるだけではない。Heiseの理論では、BSD、Apache、AFL、OSL、MIT/X11をはじめとするフリーソフトウェアのライセンスがすべて無効になる。Microsoftのシェアードソース・ライセンスも無効になる。さらに、Microsoftは今までのような方法(ハードディスクのベンダがあらかじめインストールし、PCベンダに卸すというもの)でWindowsを配布できなくなる。Heiseによれば、ハードディスクドライブとPCのベンダがWindowsのコピーを複数作成できるというライセンスも違法なのだ。Redmondは驚くことだろう。

もちろん、Heiseの声明は、著作権法を意図的に曲解したばかげた主張だ。法科大学院の著作権法に関する試験なら間違いなく落第だ。Heiseは米国著作権法のセクション117「独占権に関する制限:コンピュータプログラム(Limitation on exclusive rights: computer programs)」を根拠として挙げているが、このセクションでは次の事項が定められている。

(a)セクション106の規定にかかわらず、以下の条件において、コンピュータプログラムの所有者が、プログラムのコピーや改訂版を作成したり作成を許可したりするのは違反としない。

(1)そのコピーや改訂版の作成が、そのコンピュータプログラムをあるマシンで利用するために不可欠であり、その目的以外に使われないこと

(2)そのコピーや改訂版が、アーカイブだけを目的として作成され、当該コンピュータプログラムの所有が合法でなくなった場合にはアーカイブ用コピーはすべて破棄されること
文言を見れば明らかなとおり、セクション117の内容は、「ライセンスを持たずに著作権で保護されている作品のコピーを作成することは、通常は著作権法で禁じられているが、コンピュータプログラムに関しては、ライセンスがなくても、コピーを作成したり、特定の目的のために変更を加えたりすることができる」というものだ。 著作権の所有者が独占権をライセンス化して許可できる内容が、この条項によって制限されるという主張は完全に誤りだ。条項の文言にも、立法経緯にも、判例法にも、著作権の背景にある憲法上の方針にも、この主張を裏付けるような内容は存在しない。この主張が実際に法廷に提出されれば、却下されるのは間違いない。

この驚くべき声明が発表されたことは、実はフリーソフトウェアの開発者やユーザにとっては朗報だ。これで、SCOはGPLへの対抗策をなにひとつ持ち合わせていないことが明らかになった。審判の日がやってきても自分たちは助かると出資者に思い込ませるために、ナンセンスな主張を繰り広げているだけだ。GPLの存続を危うくするどころか、その効力と、自由の擁護者としての重要性を強調する結果になっている。



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Eben Moglen――コロンビア大学法科大学院の法学教授。無報酬でFree Software Foundationの相談役を務めている